第63話 売れないものを売れという経営者は罪である
「事業が伸び悩んでいる。
もう何年、この状態が続いているのだろう。
これまで、様々な努力をしてきた。
WEB、営業、販促、展示会・・・・・・。
いっときは、効果のあったものもある。
しかし、それが続かない。
お客さんに効かなくなっているのだ。
なぜだろう。
社長として、社員にも発破をかけている。
がんばれ、がんばれ、がんばれ、と。
しかし、社員は、疲労の顔が浮かぶ。
本当に頑張れば報われるのだろうか。
本当に努力すれば、道が開けるのだろうか。
何かが違ってきている気がする。
何かが、時代と合わなくなってきている。
その何かが、何か。
それが見つかれば苦労しない。
それが見つかれば、きっと、よくなる、はず・・・・・・」
私は、そんな経営者の声を聞いてきました。
経営者は、いつでも不安で一杯です。
右肩上がりで業績が上がり続けた時代は良かったのですが、それがいつまでも続く会社はありません。
いつしか、それが横ばいとなり、そして、右肩下がりへと突入すると、いつ、この状態から脱せるのか、そのことを考えると、不安になるのは誰でもが経験することです。
これまで、お会いしてきた多くの経営者は、真剣に事業を考え、社員の幸せを考え、まじめに一生懸命、想いをもって努力してきた方々ばかりです。
その想い、を聞いていると、思わず、こちらもその事業を応援してきたくなる気持ちがわき上がります。
しかし、想いが強ければ強いほど、現実の業績が上向かなければ、その想いの強さ、さえも、それまであった自信でさえも、揺らぎ始め、「何をなすべきなのか」という思考の迷路に陥ります。
もちろん、そのことがわかっていて、できること全てをやっていくことは、1つの正しい選択です。
しかし、それは、お金という有限な中での勝負だと考えると、それほど悠長に構えているわけにもいきません。
会社にとって、有効な一打を早く打たなければ、タイムリミットが来てしまうからです。
むしろ、いったん立ち止まって、会社、事業、お客様、社会、などを、俯瞰的に見つめ直す、このことが、大事な時期なのかもしれません。
一度、今の社会や時代、顧客のニーズも踏まえながら、会社を組み立て直す、事業を組み立て直す、といった作業、棚卸しが必要な時期にきているのではないでしょうか。
以前、地方でサービス業を営むA社長が、コンサルティングに来ました。
想いがあふれ、社会への貢献意欲が高い方で、これまで長年経営してきて、順風満帆に、うまく経営をされてきました。
しかし、あるとき競合が現れて、その市場でのシェアを奪われ始めました。
そして、その状況を打破しようと、色々なセミナー、コンサルタント、など多くの方々に学び、実践をしてきましたが、思ったような効果は得られませんでした。
そんなとき、当社のセミナーに参加されて、コンサルティングを受けることになりました。
コンサルティングを進めていく中で、こんな場面がありました。
「A社長の会社は、これまで培われた顧客資産に加えて、強みもあるし、こうすべきだ、という想いがありますよね。
そうであれば、競合のスタンスと、まったく違う考え方で、これまでやってきたのに、おそらく、ここのところ、お客様を獲得するために、その打ち出し方を、競合と同じように持っていってしまっていますよね。
それでは、会社の良さがなくなり、まったく同じようなサービスに見えてしまって、違いがわかりません。
そこから考えていくと、○○のような方向性で、今後経営すべきなのではないでしょうか。何よりも、それは、A社長自身が、これまで大切にしてきた考え方ではないでしょうか。
その○○は、昔も今も、大事な考え方だと思います。そして、顧客の普遍的なニーズでもあるのだと思います。
その○○を、改めて強く打ち出していきませんか。」
と申し上げたら、A社長が、
「先生、長年、もやもやしてきて迷っていた考えがとてもすっきりしました。
そして、やっと、今後の当社のやるべき姿が見えてきました。
ずっと、その競合ばかりが気になり、その競合のスタンスを取り入れてしまっていたために、同質化してしまっていたのですね。
コンサルティングを進める中で、当社には、絶対に負けない部分があることがよくわかりました。どんな競合が来ようとも、です。
これで、私は、これから自信をもって経営に当たることができます。」
と、力強く言ってくださり、コンサルティングが終わりました。
その後は、新サービス開発なども含めて事業展開を行い、ご活躍されています。
経営者の重要な仕事として、やはり、会社の方向性をつくる、事業の柱をつくる、売れる商品やサービスをつくる、ことを中心に据えるべきです。
そして、次のことも申し上げておきたいと思います。
「売れないものを売れという経営者は罪である」
と。
経営者は、売れない商品やサービスしかないのに、それを改善しようとせず、社員に、「なぜ売ってこないんだ」と発破をかけます。
それが、そもそも間違っているのです。
中小企業において、売れる商品やサービスを作るのは、経営者の仕事なのです。
最後に、
経営者の、今の行動こそが、会社の未来を作り続けているのだ、ということを申し上げて、今回のコラムの筆を置きたいと思います。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
吉田 隆太