第67話 戦略の○○○○が組織に停滞感を生む!
「新入社員が3年ぐらいでどんどん辞めてしまい、定着しないんです。おそらく同じ仕事を繰り返してやっているだけで、楽しくないんではないでしょうか。」
法人向けに商材を開発し、卸している会社のある経営者からのご相談でした。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
この企業は、売上が決して下がったり、利益が出ていなかったりするわけではありません。それなりの売上規模と利益率を維持して、ある意味で、とても経営的には安定しており、厳しい経営状況に直面している企業からすれば、贅沢と言えば贅沢な悩みなのかもしれません。
しかし、経営者は不安なのです。
それは、現在の市場が今後縮小していくことが見えていること。
新入社員が入っては辞め、入っては辞めてを繰り返してしまい、定着せず、社員年齢が高齢化していること。
そして中長期的には、次の成長戦略が見えていないこと。
などが、理由に当たります。
これらのことは、現在の経営状況がどうであれ、多くの企業が直面している課題なのではないでしょうか。
社歴が数十年におよび、そして、売上もそれなりの規模になっている会社の多くが、過去、必ず1つ以上の成功パターン、勝ちパターンを持っており、売上、利益が伸びてきている局面があります。
そうでなければ、とっくのとうに淘汰されています。
その成功パターンや勝ちパターンは、時流に乗ったり、たまたま、うまくいったということも含まれるでしょう。つまり意図的に生み出したものではない場合もあります。
そうなると何が問題か。
それは、その次の新しい成功パターンや勝ちパターンを再現できないということです。
仮に、意図的に生み出されたものであっても、時間があまりにも経ってしまえば、今の時代にあった成功パターンを生み出すことは、また違った時代への見立てが必要で、そのことができるかどうか、ということは別問題となります。
そして、先代の経営者から事業を承継した場合になると、なおさら、その意図的に生み出された成功パターンややり方は、すでに過去の遺物のような事業モデルになってしまっている場合があります。
現在の経営者にとって、これまで新しい事業モデルを生み出した経験がなければ、必然的に、現在の経営局面の中で、何をどうしたらよいのかわからない、と思考がストップしてしまうこともあります。
中小企業のみならず、大企業でさえも、そのような過去の遺産によって、なんとか食い扶持をつないできているところもあります。
しかし、当然、いずれはその遺産を食いつぶし、倒産の憂き目に合うというのは、どんな企業でも起こりえることなのです。
ある著名な事業家は、そのような企業の起こりえる状態のことを、
「自然死的衰退への緩慢なプロセス」
と呼びました。
それは企業が、毎日毎日少しずつ、ジワジワと10年、20年単位で進んできた老化現象に対して、状況がどん詰まりまで追い詰められことがわかってからも、社員は危機感を持って、素早く反応を示すことはできず、むしろ、これまでの仕事のやり方に固執し、惰性的に流されながら長い年月をかけて、少しずつ衰退の道を辿ることを意味します。
人間は、自ら変化をあまり好まない動物でもあります。
それは、未知の世界に飛び込むことに非常に恐れがあり、ストレスもかかるからです。面倒なこともやりたくなければ、これまでやったことのないことに取り組むよりは、これまでやってきたことで、何とか生きていけるのであれば、無理して変わる必要もない、と考えます。
しかし基本的には、それは年齢が若ければ若いほど、その傾向は薄らぎます。つまり、これまでの経験があまりないがゆえに、逆に変化やワクワクすることがなければ、面白くないと判断して、会社に見切りを付けます。
将来の自分が、その会社にいる先輩に見え、仮に生き生きと先輩が働いていれば、それも魅力的に映るかもしれませんが、これまで述べてきたように、だんだんと動きが緩慢になってくれば、生き生きと働いている先輩も少なくなってくるのが必然でしょう。
「もうおれは、数年で定年だから」
と、若手の前でどうどうと言い放ち、だから、無理に自らプロジェクトにあくせくしなくてもいいんだ、と言わんばかりで、せっかく、やる気になって頑張ろうとしている中堅や若手社員のやる気をそぐような先輩も実際にいるわけです。
そんな会社に新入社員が、ずっといたいと思えないのではないでしょうか。
しかし、そのように言わせてしまうのは、経営者にも責任があります。
経営者の仕事は何か、と考えると、その1つに、社員にワクワクするような仕事を提供してあげる、ということです。
経営者は、もしかしたら社員に自ら勝手にワクワクして仕事に取り組んでほしいと願っているかもしれませんが、もしそのような自燃タイプ、つまり自ら燃えて、新しい仕事に取り組むような人財がいたら、よほど、その会社や経営者が魅力的でないと、その会社に居続けませんし、本当にやる気のある人間は、自分で起業してしまうことでしょう。
「仕事の報酬は仕事」
と言われるように、もちろん、仕事の報酬には、役職や給料アップもありますが、それらと同じように、やりがいのある、世の中的に意味のある仕事ができることを喜びとするということも、特に若い年代層で増えつつあります。
そのように考えれば、経営者は、ワクワクするような仕事を意図的に創り出していかなければなりません。
では一体どのようにして、ワクワクするような仕事を生み出していけるのでしょうか?
それには大きく2つの要素が絡みます。
1つは、上記にも書いたように、その仕事が、どのように社会とつながり、人の役に立っているのか、その仕事にどんな意味があり、意義があるのか、ということを、経営者が社員にしっかりと伝えることです。
そしてできれば、お客さんから直接的に喜ばれた体験をさせるということです。そのことが、社員の自己肯定感や自己効力感につながり、仕事にやりがいやワクワクを持たせることにもつながります。
そしてこのことは、言うまでもなく、会社としての「想い」、つまりは、経営理念や志、ビジョンやミッション、と呼ばれるもの、このことから、それぞれの仕事に落とし込んでいく、という作業が大切になります。
そして、もう1つ重要なこと・・・、
それが、会社としての戦略をしっかりと描くこと、です。
戦略とは、1つのストーリーでもあります。誰に、何を、どのように販売していくのかを、一連のストーリーのように経営者が語る必要があります。
そして、その戦略は、これまでやってきた物事の流れを汲むにせよ、新しい事業の戦略を描くにせよ、どのように戦えば、勝ち戦、つまり成功パターンや勝ちパターンをつくっていけるのか、を明確に描き切ることです。
その行動の指針となる具体論である「戦略」がないままに、いくら声高らかに、ビジョンや経営理念を語っても、ではいったい自分は具体的に何をすべきかが、社員は想像できません。
この「戦略」立案の重要性が、特に中小企業では、あまり理解されていないことは残念でなりません。
これらの「想い」と「戦略」によって、社員は、これからなすべき仕事の意義や意味と、取り組むべき具体的な仕事がわかるのです。
昨年コンサルティングした法人向けの雑貨メーカーは、新商品開発プロジェクトに、ある若手を参加させました。
その方は、やる気は、そもそもあったのでしょう。
しかし、コンサルティングを進める中で、新商品への「想い」が明確になり、「戦略」が明確に描かれていくプロセスの中で、どんどんと目の色が変わってきました。
そして、自発的な行動が伴い、結果として、そのプロジェクトのリーダーのような立場になり、牽引していきました。
そのことは、実は経営者が、そもそも意図したことではなかったのかもしれません。ただ、その経営者は、
「戦略を明確に描けたことはもちろんありがたいことでしたが、何よりも、参加した社員が、その仕事の意味や意義を理解して、率先して仕事に取り組んでくれるようになったことが、嬉しいことでした」
と語ってくれました。
さて最後に、改めてタイトルにある、「戦略の○○○○が組織に停滞感を生む!」にある○○○○とは、何だと思いますか?
実はそれは、「マンネリ」
マンネリとは、マンネリズム(Mannerism)のことで、辞書によれば、「手法が型にはまり、独創性や新鮮味がないこと」とあります。
戦略の「マンネリ」が、社員の仕事への「マンネリ」につながり、そして、組織の停滞感を生むのです。
やる気ある社員であればあるほど、仕事の「マンネリ」は耐えがたく、いずれは、退職という選択肢を選ぶでしょう。
あなたの会社は、長年やってきたやり方がただ続いている、つまり戦略の「マンネリ」になっていませんか?
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
吉田 隆太
【追伸】
当社のホームページでは、「お悩み解決事例」を多数公開しています。いずれの事例も、「戦略」をしっかりと描き切り、成功へとつながっていった実例となります。様々な業種の事例を公開していますので、参考になりそうな企業があれば、ぜひお読みください。