第108話 新しいことに挑戦すべきか、今の事業を強化すべきか?
「これから、新規事業に挑戦すべきか、今やっている事業を強化していくべきか迷っています。ご意見いただけないでしょうか」
※「カテゴリーキラー」とは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
冒頭のコメントは、先日当社のオンライン相談会に来られた、店舗サービス系の経営者からの相談です。
新しいことに挑戦すべきか、今の事業を強化していくべきか、という点については、当社のコンサルティングでもよくご相談を受ける内容です。
新しいことに挑戦するといっても、その取り組みのレベルは会社によって様々ですが、当社が戦略づくりをお手伝いした例として、下記のようなケースがあります。
- 受託メーカーが、自社ブランド商品づくりに挑戦する。
- 小売サービスの会社が、自社ブランド商品を開発する
- 特許を活かした新商品・新事業をつくり、独自市場を創造する
- 法人向けのサービスを、一般消費者向けに転用して、新しいブランドを立ち上げる
- 卸売業の会社が、新たにコンサルティングサービスを立ち上げる
など。
どの挑戦も、当事者にとっては新しい挑戦であり、いずれも簡単な取り組みではありません。
こういった難易度の高い挑戦をやるやらないの解は、その会社が置かれている状況によって様々ですが、判断のよりどころとしては、挑戦レベルに応じた組織体制、時間、資金が関係します。この点をよく検討して判断する必要があります。
というのは、その会社が置かれている状況によっては、このような新しい挑戦の前に、これまでやってきていることを見直して、そこに力を入れた方がより確実な成果につながることがあるからです。
中小企業の場合、組織体制は、一番に考えるべきポイントです。もっと具体的に言えば、その新しい取組みを「誰が中心にやるか」という人財の問題です。
中小企業の場合は、人財が潤沢に揃っていない場合がほとんどですので、これが一番に考えるべきポイントになります。
どんなレベルの挑戦でも、本気でやりきろうという中心人物がいなければ、なかなかカタチになりません。
これまでの経験では、新しい挑戦の難易度が高ければ高いほど、この中心人物の存在が大きなポイントになります。
例えば、新規事業のような難易度が高い挑戦は「本気で人生をかけてやる!」ぐらいの強い想いがある人がやらないとうまくカタチになりません。
人財も資金も豊富な大企業でさえ、新規事業は、最低でも期間は5年、専属で人を置きじっくり取り組みます。さらに、いくつかの事業を立ち上げて、一つ成功すればよいと言われています。
大企業と比較して、資源に乏しい中小企業が、なんとなく、現業と兼務で担当を置いて、試しにやってみようと思っても、おそらく、どんな新規事業も中途半端に終わると思います。
もし、担当者に新しい挑戦を任せるのであれば、そのことに専念できて逃げ場が無い状況をつくる必要があります。
なぜなら、既存業務が言い訳となり、前に進まないからです。それは、担当者が悪いのではなく、経営者のオーダー自体に無理があるのです。
担当者に任せる場合は、本人が「どうしてもやりたい」とか、「絶対にやらねば」という強い「想い」を持つことが理想です。さらに、そのことに専念できる状態をつくることも重要です。そう仕向けていくことが社長の仕事とも言えます。
その際に、本人の意思を無視して、強引に担当させても、途中で「やめさせてもらいます」と言われるのがオチでしょう。ですから、しっかりと本人の想いを汲んで、経営者も本気で時間と資金を投資する覚悟が必要です。
担当者ではなく、経営者ご自身が中心に動くのであれば、成功する確率はぐんと高まります。しかし、この場合は、既存事業を誰かに任せられる体制ができていることが条件になります。
どうしても現場から離れられない経営者も多いと思いますが、既存事業を任せる体制ができていないまま、新しい挑戦に目を奪われ、経営者が動き出すと、どっちつかずになり、売上の柱である既存事業が危うくなってしまいます。
経営者が新しい挑戦に意識を奪われて、半年、1年と現場から目を離した結果、その間に既存事業がガタガタになってしまったという話は度々耳にします。
あわてて、既存事業の立て直しに力を注ぐ一方で、やりかけた新規事業は手がつけられず、あきらめざるを得ない状況になります。ひどい場合は、両方大きな痛手を被ります。
新しい事業などに挑戦する際に、「誰が中心にやるか」という人財の問題の次に考えなければならないことは、「時間と資金」の問題です。
この「時間と資金」について考えるときに、どれぐらい負担がかかるかと気になる経営者は多いと思います。その際に、大きな視点で、「売るモノ」と「売り方」という見方がひとつの指標になります。
もし、あなたが「売るモノ」と「売り方」の両方を含んだ新しい事業への挑戦とするなら、どちらか一方だけの挑戦と比較して、相応の「時間と資金」を必要とします。かなりハードルが高い挑戦と考えるべきです。
この場合、まず、新しい「売るモノ」の戦略をしっかりと作り込む必要があります。「売り方」に力を入れる前に、徹底して市場を分析して「売るモノ」の戦略を作り込む必要があります。
というのは、さっさと「売るモノ」を完成させてしまい、「売り方」に悩むケースが多いからです。このようなケースでは、「売り方」の前に、「売るモノ」の戦略の詰めが甘いケースがほとんどです。
「売るモノ」の戦略ができていないと、その後いくら「売り方」を改善しても、修正ができず、挑戦は失敗に終わります。ですから、当社のコンサルティングでは、「売るモノ」の戦略を、一番に重要視しています。
さらに、これまで経験がない「売り方」をしていくのであれば、軌道に乗せるために時間がかかります。
BtoBであれ、BtoCであれ、これまで自社に経験が無い「売り方」は、何度も微妙な調整をしながら、成約につながっていく流れを必死でつくっていく必要があります。
まったく経験がない「売り方」に独自で挑戦するのであれば、おそらく、最低でも軌道にのせるまでに2~3年は覚悟した方がよいでしょう。
それも、専属の担当者がいて、懸命に自社にとって最適な「売り方」を追求してのことです。自社にないノウハウを学び、実践する。これを繰り返して、習得していくイメージです。
この時間とそこにかける資金の覚悟がなければ、半年、一年で、成果が出ないといって諦めてしまうことでしょう。はじめからそうなることが予想できるのであれば、もっと今の自社にとって最適な戦略カードを引くことをお勧めします。
それは、冒頭でもお伝えした通り、新しい挑戦の前に、これまでやってきていることを見直すということです。
例えば、過去のコンサルティングのケースでは、
- 売れなくて困っている自社商品をリブランディング(コンセプトや表現の改善)する
- 今の受託事業をしっかりと差別化して、既存の市場をさらに拡大する
- 自社工場の強みをしっかりと活かして、新たな販路を開拓する
- 既存の販路を活かして、売れる自社商品をつくり、投入していく
など。
いずれも、まった全く新しい事業などでの挑戦ではなく、これまで手掛けている事業や商品、サービスをベースに、現場の担当者も必死に頑張っていることでした。
体制を変えず、挑戦できるメリットや、すでに挑戦している領域で、ある程度のことはテスト済みということもメリットになります。
これらのケースでも、第一に「売るモノ」の市場戦略をしっかりと見直し、さらに、腰を据えて「売り方」をじっくり改善していくことで、道が開けてきます。
直近の当社の成功事例では、世代交代をしたばかりの経営者が、自社のサービスをもっと顧客に魅力的に伝えるために、ブランディングに挑戦したところ、そこから年間の新規顧客の開拓が過去最高になりました。
その経営者は、新しいことにどんどん挑戦する意欲がありましたし、人財も資金も潤沢な会社でした。しかし、まずは、既存サービスをしっかりと足固めしようとされた判断が素晴らしかったと思います。現在は、既存事業を強化したうえで、さらに新しい事業に力を入れています。
今回のコラムでお伝えしたかったことは、既存事業の延長で考えなければならないということではなく、あくまでも冒頭でお伝えした通り、新しい挑戦をする際は、その挑戦レベルに応じた組織体制、時間、資金が必要ということです。
当社では、新しい挑戦も、これまでやってきている延長でのさらなる挑戦も、どちらもサポートしていますが、大切なことは、慎重に判断しつつも、打ち手を止めないということです。つまり、何に手をつけたらよいか迷ったまま時間を浪費してしまうことが、一番の経営リスクということです。
打ち手を打たないまま、急激に経営状況が厳しくなり、ギリギリのところで、ご相談に来られる方が稀にいらっしゃるのですが、どうにもできないこともあります。
次の取組みに迷ったまま、打ち手を止めていませんか?
それが一番大きな経営リスクになります。
やるべきことを見極めて、どんどん前に進めていきましょう。
追伸:
新しい挑戦にせよ、今やっていることの延長での取り組みにせよ、大切なことは、市場をしっかりと見立てて戦略をつくることです。
当社では、いかにして、中小企業が売上をあげていく戦略をつくるか、そのプロセスについて、実例をもとにセミナーで丁寧に解説しています。本気で、次のステージに進もうとお考えの経営者はぜひご参加ください。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝