第118話 メーカーが「価格競争から抜け出す経営」を実現させる方法
「先生、これまで当社は、組織改革に力を入れてきて、それなりにうまく機能するようになってきました。
しかし、まだまだ価格競争から抜け出す経営が実現できていません。どうしたらよいでしょうか?」
冒頭のご相談は、産業機器関連メーカーの経営者からのものでした。同社は、これまで数年にわたって、組織改革に力を入れてきました。
最近は、その効果が表れて、幹部社員や中間層のマネジメント力が上がり、社内の意思疎通がスムーズになりました。結果として、離職率も大幅に改善され、既存の受託事業の売上も上向いてきました。
既存顧客からの信頼が一層深まり、受注が増えているものの、一方で受託事業という特性上、年々価格競争が激しくなっていました。
部門別にみると利益が出ていない仕事も目立ってくるようになっていました。
同社はこの組織改革に力を入れる前から、利益がしっかりと取れる付加価値商品を提供していく目的で、受託事業とは別に、自社商品事業を展開していました。
この自社商品事業には、ヒット商品が1つありましたが、その後、満足な売上を上げる商品をなかなか生み出すことができておらず苦戦していました。
自社商品事業は、それなりに人と時間、そして設備投資もしていることもあり、このまま続けていてよいものか迷いを感じていました。
受託事業は価格競争が一段と厳しくなり、利益が出なくなっていく一方で、未来投資している自社商品事業も不採算のままとなると、この先の経営に希望が持てません。
同社は、このような状況でした。
そこで、当社からは、
「組織づくりに投資されて、成果が出てきているのは素晴らしいですね。まずは、何より組織がしっかりしていないと、どんな投資もうまくいきません。
新規事業などの新しいことをはじめてみても、組織基盤がしっかりしていないため、企画が立ち消えになることは、世の中的には珍しいことではないですから。
組織基盤ができてきた貴社が、これから力を入れるべきことは、自社にとって最適な‟市場を創る技術”の習得です。
これは、簡単なことではないですが、ひとつひとつ積み重ねで理解し、実行していくことでできるようになります。
そして、その“市場を創る技術”を社内に浸透させて、社風にまでしていくことができれば、それは貴社を大きく飛躍させるエンジンになります。」
とお伝えしました。
つまり、組織づくりが落ち着いた会社がやるべきことは、‟市場を創る技術”の習得です。そして、‟市場を創る技術”を高め合う社風にしていくことが、価格競争から抜け出す経営を実現させる大きなポイントです。
自社にとって最適な‟市場を創る技術”は、世間一般で言えば、「マーケティング」という言葉に集約されます。
「マーケティング」とは、「市場調査」や「集客・宣伝・販売促進」といった偏ったイメージを持たれている方が多いですが、その語義は広く、本来的には市場を創造していくための活動全般を指します。
大企業で、「マーケティング」部署がない会社はほとんど存在しないでしょう。なぜなら「マーケティング」は、会社の運命を左右すると考えられているからです。
そして、優秀な人財の獲得や育成、そしてマーケティング活動全般に莫大な投資をしています。
大企業が「マーケティング」に力を入れているのは、一般顧客をターゲットとした、BtoC向けの商品を扱う会社だけではありません。BtoB向けの事業を展開する会社も同様に力を入れています。
一方で、ほとんどの中小企業が、「マーケティング」とは何かがよくわからないため、当然そこに投資していく意識を持っていません。
最近は、ようやく「マーケティング」への投資の重要性に気づく中小企業も増え、当社へ相談する会社も増えてきましたが、まだまだ少数派です。
成長過程にある中小企業がここから、一歩大きく飛躍していくか、今のまま留まってしまうかの差は、経営者の「マーケティング」の意識の差といっても過言ではありません。
当社は、ミスターマーケティングという会社名ですが、この言葉の意味合いは、まずは中小企業の経営者にマーケティングに強い経営者になって欲しい、そして、その先は、マーケティングに強い会社になって躍進してほしいという想いが込められています。
そして、一般的には、マーケティングに強くなろうと思えば、本を読んだり、勉強会に参加したりという手法が考えられますが、そういった手法だけでは、なかなか本当の力はつきません。
中小企業が、真にマーケティング力を身に着けていくためには、自社の実テーマをもとに、マーケティング思考で検討を重ねて、実践していくことが一番の近道です。
当社では、この考え方をもとに、カテゴリーキラー※づくりをお手伝いしています。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
前述の会社にこのような趣旨をお伝えしたところ、
「先生、よく分かりました。当社に抜けていたのは、まさに、‟市場を創る技術”を習得しようとする意識です。
長年にわたって、新商品の投入をしてきましたが、この‟市場を創る技術”がないままに、投資を続けてもうまくいきませんね。
ゆっくり勉強をしている時間もありませんので、ぜひ、実践でカテゴリーキラーづくりの指導をしていただけないでしょうか?」
こうして、同社のカテゴリーキラーづくりがスタートすることになりました。
‟市場を創る技術”が無いまま、投資を続けている中小企業は、どうしても長期にわたって苦戦してしまいます。それは、スポーツに例えれば、野球やサッカーで、何も技術を教えられていない人が、試合に出場し続けるようなものです。
普通の人が、単にボールを投げたり、蹴ったりすることはできても、スポーツとして野球やサッカーの試合に出るとなれば、技術を持った人とそうでない人の差は歴然です。
このことは、身近なスポーツだと簡単に理解できるのですが、いざビジネスになると分かり辛くなります。
一見どの会社も同じようにやっているように見える商品開発や新規事業開発も、‟市場を創る技術”の有無が結果に大きく関わっているのです。
もちろん、たまたまうまくいくこともあるかもしれませんが、‟市場を創る技術”が無い経営は、再現性が低く、確率が低い投資を繰り返すことになります。
そのような状態が続くうちは、価格競争から抜け出す経営は実現できません。
しかし、中小企業でも、なんとか自社独自の市場をつくって、付加価値の高い経営をしたいという強い想いを持っている会社は、この‟市場を創る技術”を得ることでよい方向に向かうことができます。
ある資材メーカーは、価格競争が厳しくなる中で、自社の資材を使ってもらえるような、企画制作事業に長年力を入れていましたが、なかなかうまくいかず苦戦していました。
その一番の理由は、企画制作事業においても競合が多かったからです。
よくある話ですが、現業が厳しいからといって、派生する事業に行けばよいという考えは短絡的すぎます。なぜなら、そこには、現業と同じか、もしかしたらそれ以上の競争が待っている可能性があるからです。
もし、企画制作の市場に進出するのであれば、その市場をしっかりと分析して、戦略を練る必要があります。この資材メーカーは、そのことをあまり考えずに事業進出してしまったのです。
当社は、企画制作事業をどうするかではなく、そもそも、どんな事業を展開させることが、同社にとって最適なのかを考える必要があるということを指摘しました。
そして、コンサルティングを通じて、出した最終結論は、既存の資材市場にも、ニッチな分野でまだチャンスがあるということでした。
そこから同社は、そのニッチな分野に集中していくことで、一年もたたないうちに会社の経営をV字回復することに成功しました。
どんどん注文が入るようになり、工場はフル稼働となり、現場の嬉しい悲鳴とともに、売上があがっていったのです。
同社の社長は、‟市場を創る技術”を体得することができたため、自信を取り戻し、この先の経営に希望を持つことができるようになりました。
このように、価格競争で厳しくなっている既存の市場でも、市場をよく分析していくことで、自社が勝てるフィードが見つかることがよくあります。
また、これまで新商品開発や、新規事業などの新しい取組みをいろいろやってきたという会社も、よく話を聞くと、着想は良いのに、どれも展開が雑で、深掘りしきれていないということもよくあります。
中途半端な取り組みを繰り返すことは、会社も現場の社員も疲弊していきます。新しい取組みになるほど、市場をしっかり分析して、丁寧に顧客を開拓していく必要があります。
さらに、最近多いのは、ブランディング投資の失敗です。近年は、中小企業にもブランディングという言葉が広まってきていますが、ネーミングやデザインなどの見せ方だけを魅力的にしても、思うように売上が上がらないことが多くあります。当社ではそのような会社からの相談もよく受けます。
ブランディングに投資をしてもうまくいかない理由は、ブランディングに着手する前に、自社にとって最適な市場をつくるための設計が弱いか、営業活動そのものに問題があるかのどちらかです。
この資材メーカーのコンサルティングが終了した後に知ったことですが、実は経営難から廃業も視野に入れていたそうです。
当社に来られる前に何社もコンサルティングを受けていて、当社の指導でうまくいかなければ、工場と土地を売って清算する予定だったそうです。
同社は、ここまで追い詰められた状況でしたが、本来は、経営難になる前に、余力がある時に、次の投資を成功させていくことが望ましいです。
そのときに、単に新商品開発や新規事業開発など、目先の投資を成功させるという意識だけでなく、会社として、‟市場を創る技術”を習得していこうとするスタンスが大切です。
もし、あなたの会社が価格競争で苦戦しているのであれば、まずは、‟市場を創る技術”の習得に目を向けてください。
さらにその先は、‟市場を創る技術”を高め合う社風にしていくことが、長期的に価格競争から抜け出す経営を実現させる大きなポイントです。
今は、価格競争で苦しんでいるかもしれませんが、どんな会社も強い想いがあれば、ここから巻き返していくチャンスを生み出せます。
ぜひ、勇気を出して、価格競争から抜け出す経営に挑戦して欲しいと思います。
追伸:
来月、5月24日(水)に「カテゴリーキラーの作り方セミナー」を開催します。
まだ参加されたことが無い方は、ぜひ一度ご参加ください。本コラムでお伝えしている‟市場を創る技術”について、豊富な事例から丁寧に解説します。
(セミナー情報は、こちら → https://www.mr-m.co.jp/lp/)
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝