第120話 受託メーカーが「物価高倒産」を逃れるために、今すぐやるべきこと
「先生、物価高で仕入れ価格が高騰してしまい、厳しい経営状態がずっと続いています。うちの業界は、簡単に値上げができる業界ではないので、なんとかカテゴリーキラーを生み出して、新しい収益モデルをつくっていきたいと思います。」
冒頭の発言は、先日、当社の「カテゴリーキラーの作り方セミナー」にご参加された、特定業界向けに器具を製造する受託メーカー経営者の声です。猛暑の中、遠方から東京会場にご参加頂きました。
当社では、現在、隔月開催で「カテゴリーキラーの作り方セミナー」を開催しています。東京のリアル会場に加えて、オンライン参加もできるようにしていますが、遠方から、時間をかけてご参加される経営者も少なくありません。
そのような方は、少し勉強してみようという軽い気持ちではなく、この先の経営を真剣に考えて、本気で新しい挑戦をしようと考えています。
冒頭の経営者も、事業承継を意識する年齢にさしかかっており、今のままの経営では、確実に未来がなく、現状を脱却したいという強いお気持ちを持たれていました。
このセミナーの日に、たまたま、日経新聞の第一面で、「物価高・人手不足…倒産が急増、中小企業に淘汰の波」という記事が出ていました。物価高という点で、タイムリーな内容でした。
その記事によると、今年度上期の中小企業の倒産件数が、前年比で30%も増えているということでした。また、記事中では、「物価高倒産」という言葉が使われ、中小企業が直面している問題が詳細に書かれていました。
物価高は、あらゆる業界で共通の課題ですが、その中でも特に競争が激しい受託メーカーにおいては、苦戦を強いられている会社も多いと思います。
物価高によって苦戦する状況は、しばらく続くと予測されますが、中小企業が「物価高倒産」を逃れるためには、【高付加価値型ビジネスへの事業転換】が必要です。
最近は、地道に値上げをお願いして、それが実現し、経営が改善してきたという話もよく聞くようになってきました。中には、うまく値上げができて、好決算になっている会社もあるようです。
そのように値上げができる会社、できない会社は、どのような違いがあるかといえば、その会社が置かれている競争環境に影響を受けます。特に、他の会社でも作れるような製品を供給している受託メーカーは、苦戦を強いられます。
さらに、発注元が、簡単に値上げをできないような状況であれば、そこから受託しているメーカーは、より厳しい状況に追い込まれます。もし、そのような状況にある発注元に、値上げを申し出れば、簡単に他社に切り替えられてしまいます。冒頭の会社もそのような環境にあるとおっしゃっていました。
もし、このような状況にある受託メーカーが改革の手を打たなければ、体力がない会社から倒産していくことは間違いありません。それが、「物価高倒産」です。
長年商売を続けていれば、地元の信頼、お客様からの信頼があるので、まさか、うちの会社が潰れるとは思えない、と思っている経営者も多いと思います。しかし、100年続いた会社が101年目で倒産することは不思議ではありません。
多くの受託メーカーは、「物価高倒産」を回避するために、業務の効率化、経費削減などの努力はしてきていると思います。しかし、これらはあくまでも、経営“改善”に過ぎません。
いま、必要なことは、本気の経営“改革”です。
長年商売をしている会社であれば、経営者が本気で立ち向かわなければならない局面がこれまでに何度かあったと思います。
まさに、今回の「物価高倒産」を避けるためには、経営者が本気で改革をすべきタイミングなのです。
当社は、これまで16年間にわたって300社以上のコンサルティングをしていますが、その中で、厳しい経営状態に追い込まれた受託メーカーも来られています。そして、見事に経営をV字回復して、その後ご活躍されている受託メーカーが多く存在します。
そのような会社は何をしたのか、を一言でいえば、
「高付加価値型ビジネスへの事業転換」です。
そして、この「高付加価値型ビジネスへの事業転換」は、“改善”の意識では、とうてい実現できるものではありません。もう一度、新しい会社をつくるような気持ちで、本気で“改革”に挑戦していく勇気、強い意志が問われます。
まずは、経営者がその岐路に立っていることを意識する必要があります。
「高付加価値型ビジネスへの事業転換」をすべきと言われても、あまりイメージができないという方も少なくないと思います。
特に、受託メーカーは、発注元の希望に合わせて製造をするスタイルなので、自ら何かを生み出すようなことは、これまで手掛けたことが無いという会社が多いと思います。
受託メーカーが置かれている状況は様々ですので、どのように「高付加価値型ビジネスへの事業転換」をするかは一概に言えませんが、本コラムでは、当社のコンサルティングを受けられた受託メーカーのケースを3つ紹介したいと思います。
ケース1:特定分野への絞り込み
まず、1つめに紹介するのは、「特定分野への絞り込み」のケースです。
これは、受託メーカーとして、自社の技術やノウハウを活かして、将来性のある分野に絞り込んで攻めていくものです。ターゲット市場を見極めて、そこでより専門性を打ち出して、市場開拓をしていくイメージです。
基本的には、受託事業というスタイルを変えることなく、現状の体制を活かして展開するので、現場への負担が小さいなどのメリットがあります。
当社コンサルティングの例を1つ上げると、ある資材の受託メーカーは、今やどの同業会社も持っていないような古い製造機械を活かして、特注資材の市場開拓に成功しました。
コンサルティングを受ける前は、廃業も考えていた同社でしたが、これを機に、工場はフル稼働となって経営はV字回復しています。
ケース2:ブランディングと営業強化
2つめは、「ブランディング(表現の魅力化)と営業強化」のケースです。
受託メーカーで多いのは、特定のお客様とのお付き合いが長く続いているため、新規の販路開拓が不得意という会社です。
また、既存でお付き合いして頂いている会社からは高い評価があるものの、自社の魅力を、新規のお客様に向けて、うまく発信できていないということもよくあります。
そのような会社で、まだまだ、自社がお役に立てる市場が見えている場合は、まずは、ブランディング(表現の魅力化)で、しっかりと自社の魅力をパンフレットやホームページで発信できるようになることが大切です。
そのうえで、営業部隊の新規販路開拓力を強化することで、市場を一気に広げられる可能性があります。
当社コンサルティングの例では、ある受託製造を行っていた食品メーカーが、ブランディングと営業部隊強化に取り組み大成功しました。営業部隊の強化は、営業マン一人一人のトークスキルなどまで落とし込んで改善していきました。
そのような地道な取り組みの結果、これまで、何年も新規開拓ができなかった営業マンが、どんどん新規の販路開拓を実現するようになりました。
そして、コロナが直撃して疲弊していた業界にもかかわらず、新規開拓で、事業売上の半分を稼ぎ出す結果を出しました。(約1年間の新規開拓の活動で、売上5億円増を達成)
ケース3:受託脱却の自社商品開発
3つめは、「受託脱却の自社商品開発」のケースです。
受託事業の宿命は、よほど特別な技術やノウハウを持つ会社を除いて、価格競争に陥っていきます。毎年の価格の見直しで、競合会社との比較から、どうしても、少しずつ利益が出にくくなっていきます。
少しでも多く利益が出る仕事を獲得していくように努力をするものの、競争が激しい分野では、大きな利益改善は見込めないでしょう。
このような状況から脱却していくための手段が、利益がしっかり確保できる自社商品を持つことです。
当社のコンサルティングを受けたある雑貨メーカーは、通販会社などの受託製品をつくっていました。しかし、年々利益が出なくなっており、厳しい経営状況になっていました。
そこで、経営者が代替わりしたタイミングで、受託から脱却したいと考えるようになり、自社商品開発に舵を切っていきました。
最初に手掛けた自社商品は、うまくいきそれなりに売上に貢献したのですが、なかなか1つの商品だけでは、持続的に会社を支えていくほどのインパクトはありませんでした。
そこで、コロナ禍になる少し前に、当社のコンサルティングを受けることになり、大ヒット商品を生み出し、年商が一気に2倍以上になりました。(年商4億円から10億超に)
そこから、さらに当社のコンサルティングを活用して、何年かのお付き合いになりますが、毎年1つぐらいのペースで、新商品を開発しており、いずれも話題の人気商品になっており、同社の売上をしっかりと支えています。
受託メーカーが、自社商品開発に取り組んで成果を出していくということは、経験がない会社にとっては、少しハードルが高いかもしれません。
しかし、しっかりと売れる自社商品を持つことは、粗利が高い経営が実現でき、給与面での還元ができるだけでなく、会社のイメージアップにもつながり、人材採用にも大きなプラスになります。ですから、「受託脱却の自社商品開発」は、経営者にとって、魅力的な挑戦領域です。
以上、3つのケースを紹介させてもらいましたが、いずれも、当該市場で、「カテゴリーキラー」と言える存在になっています。
ちなみに、カテゴリーキラーの定義は、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス、事業のことです。ここでお伝えしている、高付加価値ビジネスと同義と考えて頂いてよいと思います。
受託メーカーが、どのように「高付加価値型ビジネスへの事業転換」をするかは、ここで紹介したケース以外にも選択肢はあると思いますし、個々に置かれている状況や、その会社が持つ強み、将来目指すべき姿、市場性なども含めて、複合的に考えていく必要があります。
“改革”は“改善”と違い、長期の取り組みになります。ですから、ひとくちに「高付加価値型ビジネスへの事業転換」といっても、最初の選択を間違えないように、慎重に検討することが大切です。
何年もかけて、取り組んできた“改革”がうまくいかず、当社に相談に来られる会社は多くあります。
そして、その内容を詳しく聞けば、“改革”に着手する段階で、戦略的な思考ができておらず、安易に舵を切ってしまっているという共通点があります。
もっと、別の選択肢はなかったのかと思うのですが、スタート時点での検証が浅く、どんどん進めてしまうと、後で苦労します。
ですから、大きく舵を切る時ほど、慎重に検討して戦略を詰めていくことが大切です。しっかりと方向性を見極めて、そのうえで、一気に踏み込んでいくイメージです。
もし、このコラムをお読みのあなたが、受託メーカーの経営者で、物価高や価格競争でお悩みであれば、「高付加価値型ビジネスへの事業転換」について、一度真剣に考えてみるべきです。
それ以外に方法論があればよいのですが、この先も長期にわたって経営をしていくのであれば、「高付加価値型ビジネスへの事業転換」以外に生き残る道はないと思います。
そして、「高付加価値型ビジネスへの事業転換」への道のりは、そう簡単ではありません。会社の状況によっては、何年もかかるケースもあります。
ですから、“改善”に目を奪われて、“改革”に着手するのが手遅れになる前に、一日も早く行動に移すべきです。
あなたは、このまま改革に手をつけず、「物価高倒産」に向かいますか?
それとも、ピンチをチャンスに変えて、生まれ変わり、高付加価値型ビジネスの実現を目指しますか?
追伸:
次回の開催は、少し先になりますが、9月19日(火)に「カテゴリーキラーの作り方セミナー」を開催します。すぐにセミナーを受講をされたい方は、オンデマンド配信もしていますのでご利用ください。オンデマンド配信は、いつでも受講可能です。
まだ当社のセミナーに参加されたことが無い方は、ぜひ一度ご参加ください。本コラムでお伝えしている‟改革”のやり方について、豊富な事例から丁寧に解説します。(セミナーの詳細はこちらから)
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝