第124話 競合他社に負けない「売れる商品・サービス、事業」の作り方
「先生、次の新しい売上を生み出そうとして、いろいろと挑戦してきましたが、いまいちどれも、売上の柱になるまでは至っていません。どうしたらよいでしょうか?」
つい先日、このようなご相談がありました。同社は、創業50年以上になる、特定業種の用具を製造するメーカーです。
同社は、これまで50年以上にわたって、経営するなかで、お客様のニーズが大きく変わり、提供している商品のカタチを大きく変えていかなければならないことがありましたが、そういった危機を乗り越えてきた会社です。
経営のスタイルは、どちらかと言えば、売上を拡大していくことを優先するスタイルではなく、自社の技術をしっかりと継承していくことに重きを置いた経営です。
しかし、技術を継承しようと考えていても、時代の流れで競合の参入商品に市場を奪われてしまい、これまで何十年と製造している主力商品の売上が低迷してしまっており、事業継続が年々危うくなっていることが現在の悩みでした。
もちろん、そのような傾向は、かなり前から兆候が出ていたため、主力商品に変わる、新商品開発にも何度も挑戦してきました。しかし、なかなか思うように売上が上がらないということでご相談に来られました。
同社のような製造業だけでなく、既存の商品やサービスのライフサイクルが終わろうとしている時期があって、そのことを十分に理解しつつも、新しい方向性を見出せなくて悩んでいる会社は、とても多くいらっしゃいます。
現在、当社のコンサルティングを受けている会社の中にも、既存事業の売上の限界を感じて、新しいことに挑戦している会社が複数社あります。
受託の製造業、老舗の卸売業、老舗の小売店、特定分野のサービス業などの会社が真剣に取り組んでいます。コンサルティングのテーマは、新商品開発や新サービス開発のほか、新規事業の創出などです。どのテーマも競合他社を圧倒する差別化を見出すことを狙いとして、戦略づくりの策定をしています。
いずれの会社も、業績が悪化して困っているような状況にはなく、今のうちに次の新しい売上を見出しておかないと、5年後、10年後には、厳しい状況になると予測して取り組まれています。このような取り組みは、経営としては、とても健全な挑戦です。
一番危ないのは、長期的に考えて、状況が改善されないことが分かっているにもかかわらず、経営者の危機意識が低く、正面から向き合っていない会社です。
お客様のニーズの変化や、競合の参入により売上が下降している場合は、自社内部よりも外部の影響が大きいので、本気で問題に向き合って改革をしていかないと手遅れになります。
最初は、業績へのマイナス影響は、たいしたことがないのですが、まずいなと思ってから数年後に、本格的な売上の減少が始まります。そして、5年、10年とそのままの状況が続くと、手の打ちようがなくなって経営難に陥ってしまうというイメージです。
このように、外部の影響を受けて経営難に陥ってしまった会社が相談に来られることもありますが、そこまで来ていると、打つ手はほとんど無い状況に陥ります。残念ながら、経営を諦めなければならなくなってしまいます。これまで17年間の経験で、そういう状況に陥ってしまった会社にも直面したことがあります。
経営者は、そのような最悪な状況を回避するために、色々な打ち手を考えて行動するのですが、冒頭で相談があった会社のように、なかなかその打ち手がカタチにならないと、長期的に不安な時間を過ごすことになります。
打ち手を講じている間は、精神的に前向きになるのですが、それが売上につながらないことが続くと、このまま同じことを繰り返していて良いのかというネガティブな気持ちが積み重なっていきます。
同社のように長年培った技術力のある会社は、その技術を活かした商品を提供していくことが基本になりますので、多くの種類の商品開発に挑戦していました。
しかし、ここで一番の大きな問題は、自社が強みだと考えている、こだわりの技術が、お客様にとって、どの程度のメリットがあるのかということです。
売り手は、お客様のためになる商品だという信念はあるのですが、そのお客様に、どの程度伝わっているかといえば、そこが曖昧になっていることが多くあります。
このまま、お客様にとってのメリットの追求と、そのメリットをしっかりと伝えきることができない限り、どんな商品を開発しても、あまりぱっとしない結果で終わってしまうと思います。
そうならないためには、いろいろと商品開発に手を出していくことを一旦止めて、本当に力を入れるべき看板商品は何かということを徹底的に考えるべきです。当社が提唱している「カテゴリーキラー」づくりの基本的な考え方です。
この姿勢がとても大切で、よい商品企画ができなければ、商品開発を見送るぐらいのスタンスが必要です。逆に、よい商品企画ができたならば、それが自社を代表する看板商品として、立ち上がるように、一点集中して力を注ぎます。
そして、よい商品企画を生み出す最大のポイントは、「自社の強み」をあらためて見直すということです。
この「自社の強み」という言葉は、経営者であれば、当たり前のように意識をしていると思います。しかし、「自社の強み」について、以下の問いかけをした際に、自信をもって答えられる経営者はとても少ないのが現状ではないでしょうか?
- 「自社の強み」は明文化され社内で共有していますか?
- 「自社の強み」は、競合他社と比較した際に、力強さは感じられますか?
- そもそも「自社の強み」と定義していることに、抜け漏れはないですか?
この他にも「自社の強み」を検証するポイントはいくつかありますが、ここで伝えたいことは、本当に力強く売上に結びつくような商品を開発しようとするときは、その商品を生み出す背景にある「自社の強み」について、徹底的に見直す必要があるということです。
しかし、多くの場合は、新しい売上をつくりたいというときに、「自社の強み」を分析しましょうと言えば、「自社の強みは、自社のことだから十分に分かっている。早く新しい売上を生み出す商品アイデアや、売り方について検討したい」という気持ちになります。
しかし、その考えこそが、危険です。そのままいけば、大切な経営資源の浪費につながるのです。
なぜなら、「自社の強み」が効いていない商品は、仮に大きな売上になった際に、それを見ている競合が同じような商品を売り出してきます。そして、数年もすれば、価格競争に陥ります。
また、これまで自社がやっていない新しい売り方でうまくいけば、一時的には売上になりますが、それも競合が容易に真似をするだけですので、長期的に会社を支えるような売上にはなりません。
つまり「自社の強み」を考えない、商品や売り方は、本質的な差別化にはならず、短命に終わるのです。1年~3年という短期は良いかもしれませんが、5年、10年となってくると話は別です。
さらに、単に商品をつくるのではなく、競合が入りたくても入れない領域、つまり自社にとって優位に戦えるカテゴリーを創出していくイメージをもつことが大切です。
当社では、このように独自のカテゴリーを創出できるような商品を、「カテゴリーキラー」と称して、中小企業が「カテゴリーキラー」を持った経営をしていくことを啓蒙しています。
ちなみに、「カテゴリーキラー」とは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業と定義しています。一般的には看板商品、看板サービス、看板事業と言われるものです。差別化戦略商品という言い方もできます。
「自社の強み」について考えるとき、
『中小企業は、同業他社に勝てるような強みを持っている会社は少ない。だから、多くの会社は、サービス力を強化して差別化していくしかない。』
という意見を見聞きすることがあります。
ある意味で、正解かもしれませんが、競合他社も同じように取り組めることを考えると、それだけでは、厳しい経営を改善していくための抜本的な解決案とは言えないでしょう。
また、この考え方は、個性を捨てろと言っているように聞こえます。
中小企業は、会社としての個性やその会社らしさで勝負してこそ、利益につながります。その重要な要素のひとつが「自社の強み」であり、そこに立脚した商品です。
もし、本当に強みがないのであれば、それを認識したうえで、どのような強みを見出すべきかについて、そこから考えるべきです。
これまで17年間、300社以上の中小企業とお付き合いをしていますが、長年経営をしている会社で「自社の強み」が無いという会社はありませんでした。
ただ、「自社の強み」を定義して、どのような市場をつくるかという「戦略」を持っていない会社はたくさん存在します。
ですから、「自社の強み」を定義して、自社らしい、独自の市場をつくるための「戦略」を持つことが、価格競争に巻き込まれず、しっかりと売れて利益を出して経営をしていくポイントと認識することが重要です。そして、その独自の市場をつくるための中核商品が、カテゴリーキラーであり、看板商品になります。
一番重要なことは、今回ご相談があった50年以上続く、長年培った技術を持つような会社は、今一度「自社の強み」を徹底的に見直すことからはじめることです。おそらく、技術以外にも強みと言えるものがあると思います。
そのうえで、それらの強みを複合的に活かして、現在の市場をしっかりと分析したうえで、何をカテゴリーキラーにしていくかについて真剣に検討して、選択することが最も重要なのです。
当社の経験では、「自社の強み」を徹底的に見直すことで、チャンスを生み出せることが少なくありません。
以前、創業40年になる老舗の素材メーカーが当社の指導を受けにこられたことがあります。こちらの会社は、経営的にかなり厳しい状況にありました。
これまで、業績を回復させるために、新規事業を立ち上げて、一生懸命に新しい売上づくりに何年も取り組んでいましたが、なかなかカタチになりませんでした。
当社の指導を受けに来られたときには、取り組んでいる新規事業の可能性も含めて、どうにか、売上減少を補っていきたいという強い気持ちがありました。
実際に市場を詳しく分析していくと、その新規事業には、強みが効いていないことが分かってきました。この新規事業を継続していくこともひとつの選択ではありますが、その前にもっとやるべきことがないか、一旦立ち止まって検証することをお勧めしました。
ここで難しいのは、今、一生懸命に力を入れていることから意識を変えて、別の選択肢を探すという決断です。普通は、これがなかなかできないと思います。何年もかけて、時間とお金をかけてきた場合は、なおさらです。
しかし、中小企業は、経営資源が限られていますので、成果が出ない事業を継続するには限界があります。どこかで、見極めないと、そのままずるずると倒産に向かってしまうこともあります。まさに、同社は、そのような状況にありました。
このような状況で一番力を入れたいのは、やはり「自社の強み」の分析です。40年も経営している会社が、「自社の強み」について考えましょうと言えば、多くの方は「そんなことは分かっている」という気持ちになると思います。ただ、先ほどお伝えした通り、
- 「自社の強み」は明文化され社内で共有していますか?
- 「自社の強み」は、競合他社と比較した際に、力強さは感じられますか?
- そもそも「自社の強み」と定義していることに、抜け漏れはないですか?
という質問に、素直に耳を傾けて、もしかしたら、そこにチャンスがあるかもしれないという心で、一旦冷静になることが大切です。
「自社の強み」について分析した後は、それが最大限に生きる、市場を特定し、その市場を徹底的に分析していく中で、カテゴリーキラーを生み出していきます。
この市場分析も、中途半端にやると間違えた選択をしてしまうので、お客様の声を確認しながら仮説検証をしていき、丁寧に探っていきます。
そして、市場性や収益性など、いくつかの検討ポイントを考慮して、何をカテゴリーキラーとして打ち出していくかを、じっくりと見極めていきます。
商品やサービスをカテゴリーキラーにするときには、ひとつの案に固執せずに、いくつかのアイデアから最適な選択をしていく必要があります。
また、受託事業を活かして、展開していく際には、大きな視点で、BtoBでの展開可能性、BtoCでの展開可能性などを探っていくこともあります。
この選択を間違えると、後で苦戦しますから、現在の経営状況や体制などを考慮して、最適な選択をする必要があります。
この素材メーカーは、このようなプロセスを経て、特殊な市場を見つけ、オーダーメイド型の新サービスを打ち出しました。
その結果は、かなり早い段階で成果を生み、売上はぐんぐん上がっていきました。
決して大きな市場ではないですが、同社にしかできない「自社の強み」が効いた領域で、しっかりと利益が出る事業になり、短期間で経営をV字回復することができました。
後から、聞いた話ですが、当社の指導を受けて、業績を回復できなければ、廃業するつもりだったとのことでした。
プロジェクトをスタートした時点で、経営が厳しいということは聞いていましたが、まさか、そこまで追い込まれている状況だったということは、知らされていませんでした。
もし、あなたがこれまでに、既存事業の売上減少を補うために、新商品開発、新サービス開発、新規事業開発などに取り組まれて成果につながっていないとしたら、それは「自社の強み」が効いていないのかもしれません。
また、その次のステップの市場分析がしっかりできていないことに問題があるかもしれません。市場分析が弱いと、せっかくの強みも発揮できません。
これらのプロセスに問題を抱えながら、次々と打ち手を打っているとすれば、今後も成果につながる可能性が高まることはないと思います。限界がきてどうにもならない経営状況を招く前に、本気でこの点について考えて欲しいと思います。
中小企業は、誇れる看板商品、カテゴリーキラーを持った経営をしていくべきです。
経営者は、常にそのことを意識して、カテゴリーキラーを生み出し、独自市場を創りあげていくことに全力を注ぐべきです。
当社は、1社でも多くの会社にカテゴリーキラーがある経営を実現して、健全な経営を実現して欲しいと願っています。
追伸:
カテゴリーキラーづくりに取り込もうとされる方を対象に、「カテゴリーキラーの作り方セミナー」を隔月で開催しています。次回は、11月20日(水)に開催予定です。
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席数に限りがありますので、参加される方はお早めにお申込みください。
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株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝