第62話 投資で失敗する前に、絶対にやるべきこと
「当社はここ数年、売上があがってきて、全体的に上向いています。少し余裕があるうちに、次の事業の柱をつくる準備をしていきたいと思います。」
当社にご相談にこられた経営者のコメントです。
同社は、一般家庭向けのお役立ちサービスを展開し、順調に売上を伸ばしているということで、資金もあり投資意欲も満々でした。
そして、次の事業展開、次の一手は、それなりに投資を伴うため、絶対に失敗できなということで、当社セミナーを受講されました。
そして、しっかりと市場を俯瞰して自社独自のカテゴリーキラー戦略をつくりあげたいという事で、当社のコンサルティングを受けることを決められました。
私どもは、これまで10年以上にわたって、に300社以上の企業とおつきあいしてきましたが、当社にご相談にこられる時点で、企業が置かれている状況は様々です。
・毎年、少なからず利益は出ているが、過去のように勢いはなく、何年も売上規模が変わらない、今のままでも大きな問題はないが、次の突破口が見つからない企業
・売上が毎年下がってきていて、このまま放っておけば、事業存続が厳しくなってしまう状況で、不安をかかえながらも一生懸命に努力されている企業
・売上が急減速してしまい、まったなしで、テコ入れしないと間に合わない、まさに生きるか死ぬかの窮地に立たされている企業
など、それぞれの企業によって、置かれている状況は様々ですが、冒頭の企業のように、資金の余裕があるときに、しっかりと準備して取り組まれようとしている会社と、そうでない企業とでは、前者の方が有利に物事をすすめられるのは言うまでもありません。
といいますのは、戦略をつくって、準備するというのは意外と時間がかかります。もちろん、経営者が戦略づくりに長けていて、どんどん戦略を考えて、スマートに事業を展開できる方もいらっしゃると思いますが、私どものところにご相談にこられる経営者は、純粋な想いをもって地道な努力を積み重ねてこられた方がほとんどです。
どちらかというと、戦略よりの思考ではなく、世の中のお役に立つために一生懸命に現場に向き合ってきた方で、素晴らしい想いを持たれていて魅力的な方が多いです。
そういった経営者が、自社の市場を俯瞰して、戦略づくりをしていくとなると、はじめてのことばかりで、しかも現業があっての取り組みなので、どうしても時間がかかってしまいます。最低でも半年から、1年の時間をかけて、カテゴリーキラーを生み出すためのマスタープランを丁寧につくり上げていきます。
このカテゴリーキラーを生み出すためのマスタープランは、言い換えれば、市場を攻略するための設計図ともいえます。
自社がカテゴリーキラーを生み出して躍進していくために必要な条件を整理して、この内容であれば、勝てる!という戦略の見立てを設計していきます。
もちろん、市場を攻略していくためには、営業活動や販売促進をやらずして、売上があがるということはありませんから、マスタープランをつくっただけで、すぐに売上があがることはありません。
しかし、この「市場攻略の設計図」なしに、やみくもに、営業活動や販売促進をやっていくということは、私どもから見ると、設計図なしに建造物をつくっていくようなものに見えます。建造物で設計図がないということはあり得ないと思いますが、長年多くの企業の戦略づくりをお手伝いしていると、どうしてもそのように見えてしまいます。
実際には、「市場攻略の設計図」がなくても営業活動や販売促進は、だれでも手を出すことはできるので、とりあえずやってみるということはできるのですが、「市場攻略の設計図」がないため、やみくもに手を打つようなことになってしまいます。航海マップがない海をさまようような感じといってもよいと思います。
中には、優秀な社長が頭の中では、しっかり戦略をイメージしているケースもあるのですが、ではそれは現場の社員と共有できているかといえば、それはできていないということがよくあります。
このように社長の頭だけで戦略を描いているケースは、社員に理解されていないため、現場の社員も社長に振り回される毎日でお互いにストレスを抱えて疲弊しています。
この状態を長年繰り返すとどうなるか、それは、社長の顔色ばかりみて、自分で考えることができない幹部社員ばかりに囲まれます。さらに、社長が若い時はよいですが、そんな幹部ばかりで、会社を継承できる人材はおらず、社長はいつまでも現場を離れることができません。
今後、社長が少しでも部下に安心して事業を任せていけるようになるためにもやはり、マスタープラン、「市場攻略の設計図」は、組織に欠かせません。最低でも、社長交代の10年前ぐらいから手がけておかないと、よい幹部社員や次の承継者は育たないと思います。社長と次の時代を担う社員が、一緒に「市場攻略の設計図」をつくり、それのことを会社の文化にしていくことが大切です。
先日、数年前に当社と一緒に「市場攻略の設計図」をつくった社長からこんなことを言われました。
「おかげさまで、いまでは現場にいかなくても、やっとうまく回っていくようになりましたよ。時間かかりましたけどね。若手の社員が本当に活躍できる組織に生まれ変わりましたよ。今期はボーナスもたくさん払えました。あのときつくった設計図がなければ、ここまで躍進できていないでしょうね。本当にありがとうございました。」
同社は、商社ですが、一緒につくった「市場攻略の設計図」とは、競合が多数ひしめくなかで、どのように自社独自のカテゴリーフィールドをつくっていくか。そして、その中で具体的な商品として、カテゴリーキラーをどう生み出していくかという戦略プランです。
それから、5年が経過しますが、社長の頭の中だけでなく、組織全体が市場攻略の設計図を理解し共有し、さらに、新しく入社希望する社員にもそれを共有することで、よい社員が入社してくる流れができています。
商社ですから、商品を仕入れて販売しますが、設計図に従って、勝てる品ぞろえをしているのです。また、現在は、仕入れ商品ではなく、自社オリジナル商品の企画にも積極的に取り組みはじめています。
その商品を見て、会社を見て、魅力を感じて入社を希望する人の流れができているのです。驚かれるかもしれませんが、同社は、社員20名ほどの中小企業ですが、人材募集で困ることはないと言います。幹部社員が定着し、さらに、入社希望者が絶えないということです。
とても良い流れができています。「市場攻略の設計図」があり、そのうえでどんな商品・サービスを展開していくべきか、そしてどのような人材を雇用すべきか、そういった事に筋が通ったシナリオが作り出せているのです。
同社は、売れれば何でもよいということで、商品を品揃えしていたとしたら、おそらくこのような流れは作れなかったと思います。市場を俯瞰して、自社が確実にお役に立てる領域を設定したからこそ、商品を品揃えしていく毎に、その会社らしさが色濃くなっていき、商品単品ではない戦い方ができているのです。
「市場攻略の設計図」を持つべきということは、メーカーであっても、サービス業であってもどんな業種でも同じです。自社が勝てる「市場攻略の設計図」をつくり、現場に落とし込むということは、経営者が一番にやらなければならない仕事だと常々感じます。
利益があるうちに、次の展開を考えている経営者は素晴らしいと思います。しかし、少しだけ注意してほしいのは、本気の投資であればあるほど、慎重にこの「市場攻略の設計図」を描いてほしいということです。
「市場攻略の設計図」は、しっかりと、基本に忠実に、マーケットを把握して、丁寧に作り上げていく必要があります。後からぶれた経営にならないように、徹底的に考え抜いて、中長期で戦えるものでなければなりません。
前述の通り、過去に次の本気の投資がうまくいかず、窮地に立たされてしまった経営者からの相談を受けたことが何度かあります。
今は、飛ぶ鳥を落とす勢いで、成長されている会社も、何十年とそのような状態が続いている会社はほとんどないでしょう。必ず浮き沈みがあります。浮いているときはよいですが、大きな投資が失敗して沈んだ時は、そのダメージは本当に打撃が大きく辛いものです。
そういう厳しい状況に立たされた経営者は、皆さん心に穴があくような思いで苦しまれています。そのように資金や時間がなくなってからでは、どうにもできないことがあります。そうならないためにも、本気で投資をされる方は、一度立ち止まって、自社が戦っていく市場について、真剣に考えてほしいと思います。
次の展開に踏み込む前に、
次の大きな投資をする前に、
組織が一丸となれる、市場攻略の設計図はできていますか?
大切な資金と時間を費やす前に、この点について、是非真剣に向き合ってほしいと思います。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
【追伸】
当社のホームページでは、「お悩み解決事例」を多数公開しています。戦略的にカテゴリーキラーを生み出して、売上拡大している企業の事例を多数ご覧いただけます。
厳しい経営危機から再起した、参考になる事例も含まれています。
様々な業種がありますので、あなたの会社と近い業種のお悩み解決事例をお読みいただくだけでも参考になると思います。