第84話 経営をスピードアップさせるやり方 カテゴリーキラー戦略
「先生、これまで新商品開発など、いろいろと挑戦してきたのですが、なかなかうまくいきません。どこが問題なのでしょうか?」
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
このご相談を頂いたのは、先日スポットコンサルティングに来られた、サービス業の経営者です。
ご自身で、本業以外にも、新規事業や新商品開発などを行いご努力されてきたということですが、どれも形になっていないばかりか、本業もこの先が不安でいまのうちに手を打っておきたいということでした。
これまでに手掛けた新規事業や新商品などについて、実際に商品を見せていただいたりしながら、どこを改善していけばよいのかご相談を受けました。
当社にご相談にこられる会社は、売れなくて困っている商品を持ってきて頂いたり、新しくデザインを刷新したパンフレットを持ってきて頂いたり、新商品や新規事業のプランについて相談を受けることも多くあります。
そして、それらのお話を聞いていくうちに、ある共通のことが見えてくることがよくあります。それは、目の前で困っていることよりも、もっと大切なことを考えなければいけないのではないかということです。
イメージでいえば、「枝葉」のことで悩まれているのですが、大切な「幹」について、向き合えていない状況です。
過去の例で、冒頭で相談されてきた会社のように、新しくつくった商品が売れなくて困っているという受託メーカーがありました。
「この新商品を売りたい、売れるカタチにしていきたい」ということは、共感できるのですが、事情を聞くと、今の事業は価格競争が厳しく、この先もあまり期待できないという気持ちから、あまり本業と関連性のない新商品に手を出して、それがうまくいっていないという状況でした。
中堅・中小企業は、経営資源が限られています。ほとんどの企業において、社長が既存事業の中心であり、なかなか任せる人財がいないという状況です。そのような状態で、社長が新しいことに関心を奪われてしまえば、既存事業は、必然的に力を失っていきます。
仮に、新しいことを手掛けるとしても、そのことによって、本業が強くなっていくことがイメージできなければ、いたずらに時間とお金を使ってしまうことになりかねません。
やりたいことと、やらなければならないこと。
経営者は、どちらの選択も自由にできますので、多くの社長がそのはざまで悩まれていますが、まずは「幹」をしっかりとつくることが基本です。
この「幹」をどうやって、しっかりと強くしていくかをとことん考えずに、「枝葉」にばかり意識が向かうと、何年たってもやっていることが、パラパラとつながりがなく広がってしまいます。結果として、「幹」が強くならず、「枝葉」も形にならないということになります。
ここでお伝えしている「幹」とは、稼ぎ頭の既存事業、既存のビジネスです。
当社に相談に来られる会社の多くは、年商数千万円~大きくても50億円規模の会社です。
たとえば、年商10億円未満の会社の場合、その会社が属している業界の市場規模は、数百億円、数千億円ということは普通にあります。市場シェアでいえば、数パーセントもしくは、1パーセントにも満たないケースがほとんどです。
仮に、あなたの会社の売上が5億円~10億円ほどで市場シェアが1%の場合、これを2%にするにはどうすればよいか、さらにその先の3%、5%にするにはどううればよいかをまず真剣に考えるべきではないかということです。
そのためには、徹底的に市場を分析して、既存の事業がお役に立てるフィールドをうまくつくっていく必要があります。これが、「幹」を太くしていくためのシナリオづくりです。
当社に相談に来られる会社の中には、この「幹」を太くしていくためのシナリオがないままに、一生懸命に「枝葉」をつくろうとしている会社があります。
以下は、必要なことではありますが、すべて「枝葉」に該当します。
・ホームページをきれいにして、もっとうまく集客したい
・デザイン性を高めて売れる商品にしたい
・思いついたアイデア商品・サービス(本業と関連が薄い)で売上を一気に上げたい
・(なんでもよいので)売れる商品を扱いたい
・必殺のプロモーションで顧客開拓を進めたい
・広告宣伝をうまくやりたい
・営業を強化したい
特に気をつけたいのが、本業と関連がありそうな新しい取り組みをしていながら、実は本業とはうまくリンクできていないケースです。
たとえば、新商品・新サービスを次々と出すものの、そのことによって、事業の「幹」が太くなっていかないケースです。これは、「幹」のシナリオがない、もしくはシナリオ設計が弱いために、個別商品の開発コンセプトが定まらなくなっています。
メーカーでなくても、商社や小売店の場合は、取り扱い商品が全体として魅力を感じない。その他サービス業であれば、何でもできますという感じで、全体として印象が薄いというケースです。
顧客から見れば、ざっくりと、何屋さんかはわかるものの、事業体としてみたときに、ぼんやりとした存在になります。こうなると、いつまでたっても、お客様のほうからやってきてくれる事業になりません。従って、焦ってまた「枝葉」に目が向いてしまい、負の循環を繰り返してしまいます。
これは、多くの会社が陥ってしまう、気づきにくいポイントです。
これから打ち出していく新商品、新サービスは、事業の輪郭をはっきりさせて、「幹」を強くしていく存在でなければなりません。
また、新商品、新サービスでなくても、もし既存事業の輪郭がぼんやりとしている場合は、まずは既存商品・既存サービスを見直して、業界の中で突出した存在になるように、事業の輪郭をはっきりさせる必要があります。
このことは、受託事業を行っている企業も同じです。
自社には、明確な市場戦略、事業コンセプトがあるか?
その事業コンセプトは、業界の中で際立ったコンセプトになっているか?
このことを徹底的に考えていくことが、受託事業の「幹」を太くすることにつながります。
中には、これまでは、太い「幹」と思っていた事業が、市場環境の変化で、危機にさらされてしまっている会社もあるでしょう。
時には、その「幹」そのものを見直さなければならない状況もあります。このとき、多くの経営者が、焦って先にあげた「枝葉」に走ってしまうのですが、やはり「幹」となる戦略シナリオがありませんから、「枝葉」もなかなか形になりません。
そして、いつまでも多くの時間とお金を失うばかりか、そこにつきあわされてきた社員の信頼を失ってしまうことも少なくありません。
「幹」の戦略シナリオを持たないまま、「枝葉」づくりを繰り返すことは、不毛だということに、経営者が本気で気づくまでに、何年もかかってしまうのが残念でなりません。
また、気づいても行動しない、もしくは行動できない経営者もいて、そういうケースはやはり目先の「枝葉」づくりを繰り返して、どんどん体力を失って、経営危機に陥ってしまいます。一番残念なケースです。
経営をスピードアップさせる最善の策は、先にあげたような「枝葉」づくりの早回しではなく、まずは、しっかりと腰を据えて、事業の「幹」となる戦略シナリオをつくることです。
そして、納得できる戦略シナリオをしっかりと描いたならば、その事業をしっかりと形にすべく、ぶれずに走り切ることです。 当社では、この戦略シナリオを本気で作り込もうとしている会社が、日々コンサルティングを受けています。
中には、社長ひとりで来られて半年ほどであっという間に戦略シナリオをつくりあげて、実行に移して大きな成果を手にする社長もいらっしゃいます。
ここで、重要なポイントは、【着実に・早期に】この戦略シナリオをつくりあげて、そのうえで【素早く・丁寧に】実行に移すことです。
せっかくの戦略シナリオも、【素早く・丁寧に】活動しなければ、形にならないのは言うまでもありません。
先日このコラムで紹介した、グッドデザイン賞で金賞を受賞した家電メーカーも、まずは、この事業の「幹」をしっかりと定めて、そのうえで、この「幹」を強くしていくための新商品開発に挑戦したのです。
爆発的なヒット商品となったことはお伝えした通りですが、このケースも「枝葉」のデザインからではなく、事業の「幹」をしっかりと考えて、商品づくりに挑戦した結果なのです。
商品と、事業の「幹」がしっかりと結びついているから強いのです。そして、「幹」がしっかりとしているので、今後もやるべきことが明確です。同社は、その後も、「幹」の戦略に従って、どんどん行動されています。
もし、あなたの会社が「枝葉」づくりに偏っていると感じるようであれば、これまでと同じように、「枝葉」づくりに無駄な時間とお金をかけることは見直して頂き、じっくりと事業の「幹」について考えてほしいと思います。
事業の「幹」を太くせずに、「枝葉」ばかりに意識が向いていませんか?
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
【追伸】
本コラムでお伝えした、事業の「幹」となる戦略シナリオを作り込み、経営危機から見事に脱した会社の優良事例を以下のサイトで紹介しています。
今回の「幹」となる戦略シナリオづくりに興味がある方は、こちらも参考にして頂ければと思います。
売上7割減の危機的状況から、V字回復させることができました!・・・組織をあげて新たなカテゴリーキラー を投入しました。(経営危機から2年で黒字化達成)