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COLUMN 儲かる10億円ヒット商品・事業をつくる「カテゴリーキラー戦略」コラム

第85話 あの「ワークマン」は、どうやって4000億円の空白市場を見つけたのか? ワークマン

ワークマン,ポジショニング

先生、このコロナを機に、これから何年にもわたって経営を続けられる、当社の絶対的なポジショニングを築きたいと思いまして、相談しにまいりました」

 地方で長年サービス業を営む経営者が、先日、当社にご相談に来られました。


 

この経営者は、コロナで会社が苦境に立たされ、いくつかのこれまで行ってきた多角化の事業展開をやめました。そして本業に立ち返り、今こそ本業に力を入れたいと考えて、当社にご相談に来られました。

 

 厳しい状況には変わらないものの、非常に前向きな経営者で、このコロナをきっかけに、本業において、オペレーションの見直しや組織改革などを行うことで、体制としては、これまでにないぐらいの強い組織体制になりました、とおっしゃられました。

 

 「コロナで厳しい状況には変わりありませんが、これまでの経営のあり方を見直す良いきっかけを与えてくれました」

 

 と晴れ晴れした表情で語ってくれたのが非常に印象的でした。

 

 しかし、組織体制としては、理想の状態に仕上げてきたと自負しているものの、肝心な戦略、ポジショニングがうまく描けていないとのことでした。その企業が立地している地域は、どの地方も直面しているように、だんだんと廃れていきつつあり、かつて数多くの同業が存在し、栄えていたこの地域も、今では、自分の会社以外は、前向きに取り組んでいこうとする企業が少なくなってしまった、とお話しされていました。

 

 そこで、当社の書籍「儲かる10億円ヒット商品をつくる!カテゴリーキラー戦略」を読み、ポジショニングの重要性に気づいて、ご相談に来られたとのことでした。

 

 ポジショニングの重要性については、これまでのコラムでも何度か紹介してまいりましたが、このポジショニングとは、競合との棲み分けを図にして描いたものです。

 

このポジショニングをしっかりと描いているのと描いていないのとでは、大きな違いを生みます。なぜ、大きな違いを生み出すのか、その理由については、後述します。

 

さて、ここ2年ほどで、世間的にも非常に有名になった、「ワークマン」を取り上げて、伝えてまいりたいと思います。

 

 かつてワークマンは、実は知る人ぞ知る小売業でした。私が子どものころ住んでいた地元にも、大通り沿いにワークマンがありましたが入ったことはありませんでした。

 それもそのはず、ワークマンは、建設技能労働者向けに主に作業服を販売している専門小売店です。そのため、一般の消費者は対象としていないお店でした。

 

 ところが2018年に、アウトドア専門店として一般客向けに、「ワークマンプラス」というショップを開店し、一般の消費者に認知され始めてから一気に人気が出ました。

 

 なぜ、これまで建設技能労働者向けに主に作業服を販売していた専門店が、アウトドア専門店としても一般客向けに展開して成功することができたのでしょうか?

 

 ここに、ワークマンの巧みな戦略とポジショニングにより発見した4000億円の空白市場があったのです。

 

 この戦略づくりには、外部からやってきた1人の方が大きく関与しています。その方が、現在ワークマンの専務取締役でもある土屋哲雄氏です。

 この方は、大学卒業後、商社で勤め、子会社の社長なども歴任し、退社後、還暦直前にワークマンに入社しました。

 その頃、ワークマンは、これまでも建設技能労働者向けに主に作業服を販売している専門小売店として独自の市場を作ってきましたが、成長の限界が見えていたようでした。

 

 入社後、大きく手がけたことが2つ。それは「戦略づくり」と「組織づくり」です。「組織づくり」は、企業風土を変えることでした。いかにして、社員が気持ちよく仕事できる環境を整えるか、そして、社員の能力を上げていくか、このことに取り組みました。

 

 「組織づくり」は、入社してから、すぐに手がけたそうです。企業風土を変えるには、時間がかかることもわかっていました。一方で、「戦略づくり」は、むしろ何かをすぐに実行するということではなく、「戦略」をつくること自体に、じっくりと時間をかけました。それは、近視眼的に売上をあげることではなく、長期的に成長させるためです。(100年の競争優位を築きたいと考えているそうです)

 

 そして見つけた市場が、低価格でありながら機能性を重視したアパレル市場でした。ここには競合が存在せず、まさにワークマンにとってのブルーオーシャンの市場でした。

 

 この低価格と高機能性を武器に、狙っていったターゲットが、アウトドア向けの一般消費者でした。この低価格と高機能性を両立した製品づくりこそが、このワークマンの強みということが見えてきました。この強みを活かして、どの市場を攻めるのか、ここがポジショニングの大きなキーポイントになります。

 

 ワークマン専務の土屋氏によれば、そのブルーオーシャンの市場を独占するためには、その6割のカギを握っているのが「製品戦略」。つまり優れた魅力的な「売る物」をいかにして作りあげるかが重要だと話しています。

 

 さらに、「最高のマーケティングは、自然に売れる製品だけをつくること」。しかし一方で、「反対に、社会の役に立たない製品をマーケティング技術で売るのは反則だと思う」と話しています。

 

 つまりは、「売り方」だけに執着し過ぎるがあまり、自社の商品やサービスである、そもそもの「売る物」が「売れる物」になっているかどうかが、しっかりと検証していくことこそが大事なのです。

 

そして、「30年、40年と続くダントツ経営を続けるには、絶対に勝てるポジション取りをすることが重要で、次に誰がやっても売上が伸び続けるしくみが重要となる」と語っています。

 

つまりは、自社の優位に働く事業のポジショニング(ワークマンの場合は、高機能×低価格帯市場)で、その市場にフォーカスし、具体的な製品づくりをいくつも行うことで、圧倒的な独自の市場を確立していくことを実現しています。

 

このことは、当社が提唱する「カテゴリーキラーづくり」、そして「カテゴリーブランドづくり」に通ずる考えと同じです。

 

以前紹介した家電メーカーの「ミシン」、および過去にも紹介した別の家電メーカーの「アイロン」においても、いずれも、事業のポジショニングを確立し、そのもとで、商品づくりを手がけてきました。

 

そうなると、どうなるのか。そのポジションにおいて唯一無二の存在になることができます。自社独自の市場、まさにブルーオーシャンを築くことができるのです。

 

ポジショニングを考えるにあたって重要になるのは、「軸」です。「軸」とは、顧客の購買決定要因が大きく作用します。例えば、ワークマンの場合、価格という軸と、機能性重視かデザイン性重視か、という2軸でアパレル市場を細分化したところ、機能性重視で、低価格という市場には、競合がいないことを発見し、かつ推定で4000億円あることがわかりました。

 

そこに打って出て行ったのです。

 

ミシンのケースでも、競合他社がまだ手がけていない事業領域のポジションを取るための「軸」を設定し、積み上げていっています。アイロンの場合も同様です。その会社の生活家電事業としての「軸」を考えて、独自の市場をつくっていくために、商品を積み上げていきます。

 

これには、時間がかかることもあります。ワークマンは、それまで、建設技能労働者向けの作業服の専門店として、積み上げてきた資産(強み)がすでにありました。それを、他の市場に転用していきました。

 

もし仮に、その資産がないのでは、と思っていたとしても、長年経営されてきた会社には、その足元に転がっているものです。

しかし、それがダイヤモンドの原石なのか、それとも、ただの石ころなのか、長年その業界に携わりすぎていて、見慣れた風景のようになり、気づかないだけなのかもしれません。

 

そのことは、土屋氏が入社する前のワークマンも同じ状態でした。

 

しかし、ワークマンからすれば異端であった土屋氏が、客観的に会社を俯瞰し、丁寧に、その強みを見定めたことこそが、まさに金の鉱脈を掘り当てたのでしょう。

 

冒頭のご相談のあった会社のみならず、どんな会社でも、改めて客観的に自社および市場環境を俯瞰して、どこにポジションができるのかを見定めていくことが、これから数年、数十年にわたって、さらに子どもが引継ぐ代になっても存続し、成長し続ける会社になっていく可能性があります。

 

このポジショニングをしっかりと描いているのと描いていないのとでは、大きな違いを生みます。

 

描いていると、客観的に独自性や唯一性を示せますので、競合との違いが一目でわかり、明確な差別化を表現することができます。

もし描いていないとすれば、競合とどのような違いがあるのか、他にはない何か特徴があるのかなど、不明確になります。

そうなると、競合と比べたときに違いが明確に示せませんので、自社の良い価値が伝わらず、価格という物差しで比較されてしまいます。そうなると、多くの場合、価格競争に陥ります。

 

もちろん、前述したワークマンのように、価格で明確に勝てることが示せているのであれば、価格競争力も優位性になりえますが、多くの中小企業の場合、価格で勝負していくことは、粗利益率が下がることにつながり、経営状態としても厳しくなることが目に見えていますので、あまり懸命な手段とは思えません。

 

そのため、このポジショニングをしっかりと描くことが非常に重要な戦略面でのステップとなるのです。

 

ぜひとも改革の手を緩めず、継続して、新しい戦略づくり勝てるポジショニングの具体的な絵を一度、描いてみませんか?

 

株式会社ミスターマーケティング

代表コンサルタント

吉田 隆太

 追伸

 今回のコラムでは、ワークマンのポジショニングについてお話ししました。

 当社のセミナーでは基本的にこれまで、当社のコンサルティング事例(例えば上記で紹介したアイロンのポジショニングの事例など)を中心に具体的に説明しておりますが、次回のセミナーでは、ワークマンのポジショニングについても、もう少し詳しく解説したいと思います。

実は、ワークマンのポジショニングマップは、私がこれまでポジショニングづくりをお手伝いしてきた経験から検証すると、素晴らしいと思える反面、軸の取り方は不十分だと思わざるをえません。軸の取り方を間違えてしまうと、これから、もっと成長していくためには、何に力を入れるべきなのか、この点もずれていってしまう可能性があります。

このことについても、セミナーの中で触れたいと思います。

 

 もし新しい戦略づくり勝てるポジショニングづくりに興味のある方は、ぜひ、当社セミナーにご参加下さい。

セミナーについて詳しくはこちら。