第106話 自社商品づくりを成功させる重要ポイント
「先生、新たに挑戦した自社商品がなかなかうまく売れません。
これは、あきらめて撤退した方がよいのでしょうか?」
※「カテゴリーキラー」とは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
冒頭の質問は、先日、オンライン相談会である経営者から受けたものです。
これまで、多くの会社から、「売れなくて困っている」という相談を受けてきました。それは、今回のご相談のように、自社商品づくりに挑戦したメーカーの例だけでなく、店舗サービス業における新業態への挑戦や、特殊な業界における新規事業なども含みます。
そして、その失敗の多くの原因が、「差別化」できていないことにあります。
そうお伝えすると、経営者からは、「差別化はあるのですが、売れないんです」と言われることも少なくありません。
実は、差別化には、定義がありまして、まずそのこと理解してもらう必要があります。それは、
「差別化とは、顧客に受け入れられ、かつ競合より優れた違いを見出すこと」
です。
この定義の中には、2つの要素が出てきます。
1つは、お客様に受け入れられているということ、そして、2つめとして、同時に競合より優れた違いを見出していることです。
この両方を同時に満たしている必要があるのですが、売れないというケースは、どちらか1つまたは両方に失敗しています。
しかし、多くの会社は、その「差別化」に目を向けず、一生懸命に「売り方」にばかり力を入れてしまい、いつまでも成果につながりません。
もちろん、「売り方」の工夫・努力は欠かせませんが、あくまでも大前提として「差別化」がしっかりしていることが大切です。当社のカテゴリーキラーづくりにおいて、一番力を入れているポイントです。
メーカー企業のように、新しい商品を生み出し続けることが必要な会社は、特に市場をしっかりと分析して、「差別化」をつくるスキルを磨きあげる必要があります。
それができなければ、いつまでも新しい自社商品づくりで成功することは難しいでしょう。
そして「差別化」を考えていく際に重要なポイントが2つあります。
それは、
1.商品・サービスを売り出す前の企画に力を入れる
2.強みに立脚した仮説出しを徹底する
ということです。
この2つのうち、「1.商品・サービスを売りだす前の企画に力を入れる」ということについて、多くの会社が陥りがちなことがあります。
それは、自社商品をつくろうということになると、経営者は、早く形にして売り出したい、お金にしたいという気持ちに駆られます。
実は、この経営者のあせる気持ちが、一番の大敵と言ってもよいと思います。
ひとつのアイデアをもとに、いち早く進めていこうと、関係者を煽ってしまったり、社長が一人でどんどん進めて商品開発や生産をスタートしてしまったりします。
もちろん経営ですから、スピードも大切なのですが、具体的な商品開発や生産に入る前の企画段階で、丁寧に市場で勝てるレベルに組み立てていくことが大切です。
つまり、企画段階で、徹底検証して「差別化」を見出すのです。
「企画段階で、「差別化」が見出せないとすれば、手を出すべきではない」
そう心に決めて企画に取り組むぐらいの気持ちが必要です。つまり売り出して苦労するのではなく、売り出す前の企画で苦労するべきということです。
では、企画段階で、「差別化」を見出すためにはどうするか、その答えが「2.強みに立脚した仮説出しを徹底する」ということです。
このポイントも奥が深いです。まず、「強みに立脚」という点について、自社の強みを正確に把握できている会社はごく少数です。これまで、300社以上の会社とお付き合いをしえてきて、自社の強みを正確に把握していると思えた会社は、数社です。
それだけ、自社の強みに意識を向けている会社は少ないということでもありますし、自社の強みを冷静に見出すことは、実は難しいことでもあります。
ですから、まずは自社の強みを冷静に把握することスタートしなければなりません。自社の強みを把握する工程は、売れる自社商品の土台づくりをするようなものです。
この自社の強みの理解がずれているとどうなるかといえば、それは、もし自社商品が売れはじめてうまくいったとしても、他社も簡単に同じようなものを出してきますから、「差別化」はあっという間になくなってしまい、すぐに価格競争に陥ります。
そのように、自社商品が売れ出したあとに、すぐに競合に真似されて、市場を奪われてしまった会社を何社も見てきました。その本質的な問題は、自社の強みが効いていない、つまり土台がしっかりしていない上で勝負していることです。
逆に言えば、自社商品に、自社独自の強みが効いていれば、簡単に真似されません。また、そのようなベースとなる自社の強みの理解があれば、どのようにその強みを強化しながら、次に出す自社商品を高めていけばよいか、発想が出てくるようになります。
自社の強みを強化しつつ、自社商品を高めていく、ここがカテゴリーキラーを生み出して、その後発展できるかどうかの大きなポイントになります。
その循環ができて自社商品が群として展開できるようになると、自社独自の市場が形成され、その業界において強いブランドに成長していきます。
さらに、「2.強みに立脚した仮説出しを徹底する」の後半部分、「仮説出しを徹底する」という点についてですが、「差別化」に失敗しているケースのほとんどが、1つのアイデアや思いつきをもとに突き進んでいます。そして、自社商品のアイデアが思い浮かんだら、市場性をよく検証せずに、どんどん進めてしまっています。
もちろん1つのアイデアや思いつきもとても大切ですし、それがヒット商品につながることも少なくありません。しかし、1つのアイデアや思いつきが売れたというのは、まぐれヒットで終わることも多いです。
やはり、前述の通りそれが自社の強みに立脚しているかどうかといことがポイントになりますし、加えて、強みに立脚したアイデアをいくつも出すということが大切です。
つまり、1つのアイデアや思いつきは、あくまで1つの仮説として考えます。そして、その1つにこだわらずに、まずは、たくさんの仮説を出すことが大切です。
1つしかない仮説で進めるのと、複数ある仮説の候補から絞り込むのとでは、後者の方が、成功率が高まることは容易に理解できると思います。
また、そこで出た仮説をしっかりと検証することも大切です。
もちろん、それなりに検証はしていると思いますが、なかなか自社商品づくりがうまくいかないという場合は、その検証の深さが足りないことが少なくありません。
複数のアイデアを出して選択する、さらに、しっかりとそのアイデアの市場性を検証する。こうやって丁寧に企画することで、それを行わない場合と比較すると、成功確率は各段に高まります。
現在も自社商品づくりをテーマにしてコンサルティングを受けられている会社が複数社ありますが、どのプロジェクトにもこのプロセスを実行して頂いています。
当社のコンサルティングを受けられたある雑貨メーカーは、当初なかなか次のヒット商品が生み出せなくて悩んでいるということで、ご相談にこられました。
詳しいお話を聞くと、それまでは、やはり仮説出しや検証のプロセスをしっかりと行っていませんでした。
そこで、次の新商品開発においては、お客様の声に耳を傾けながら仮説出しと、その実現可能性について検証を繰り返すプロセスをしっかりと行いました。
そのプロセスを経て生まれた新商品は、発売直後からとても大きな反響をよび、1年以上製造がおいつかないほどの大ヒット商品となりました。
新聞のトップ記事に掲載されたり、ビジネス誌で特集が組まれたり、テレビの特番で放送されるなどして、商品が売れただけでなく会社のブランディングにも大きく貢献しました。
同社の社長が望んでいた、「受託事業に頼りきりではなく、自社商品を売って、社員が誇りをもって働けるメーカーになりたい」という夢にむけて、大きな一歩を踏み出すことができました。
自社商品づくりに挑戦する会社には、1つヒット商品を生み出すだけでなく、ヒット商品生み出し続け、さらに競合他社がなかなか参入できないような独自市場をつくるゴールを目指して欲しいと考えています。それが、私どもが提唱しているカテゴリーキラー戦略です。
ここまで、メーカー企業の自社商品づくりをイメージして記述していますが、このことは、あらゆる業種に当てはまります。
自社がこれから、新しい商品・サービス、事業で挑戦していく領域の市場をできるだけ把握して、あらゆる展開可能性を検証する。
そして、その中から、自社の「強み」が活きる最適なカードを引く。そのことが、真に強い「差別化」を生み出すために重要なプロセスとなります。
経営者であれば、新商品や新事業などの新しいことばかりではなく、既存事業も含めて、これからどこにフォーカスして力を入れていくかを、お考えの方も多いと思います。
特に、いくつか事業を展開している会社は、どこに資源を集中させ、会社を成長させていくかが問われます。
そのように既存事業も含めて、どのように自社独自の市場を形成していくかについて、相談されることも多いですが、基本は、自社の「強み」をどう活かして、会社そのものを差別化していくかという視点で戦略を組み立てていきます。そうすることで、自ずと、進むべき道、戦略ストーリーが見えてきます。
何かに手をつけて、どんどん進めてしまう前に、一度立ち止まって検証してみてはいかがでしょうか。
これまで、新しい挑戦をしてなかなか形になっていないという方は、おそらく、ここでお伝えしたプロセスをあまり重要視されてこなかったのではないかと思います。
その結果、多くの時間とお金を失うだけでなく、社員の方が新しいことに取り組むモチベーションも下がっているかもしれません。また、社長ご自身も自信を無くしてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、会社は新しい挑戦を繰り返していかなければ、いずれ、今ある差別化は、弱くなっていきます。そして、最後は、価格のみの勝負となり、利益が出ない経営に追い込まれていきます。
最近のご相談では、自社の問題だけでなく、業界的に差別化がなくなり、市場が縮小していくという話も少なくありません。
このような状況を脱却していくためには、挑戦を積み重ねていくしかないのです。その挑戦において、成功確率を高めていくことができれば、どんどん自信をもって攻めの経営ができるようになります。そのように変わっていった会社をこれまでたくさん見てきました。
ぜひ、ひとつひとつ丁寧に取り組んで、「差別化」を生み出せる会社を目指してください。
それが、中小企業が生き残り続け、発展し続けるための解です。
これから挑戦することは、しっかりと「差別化」を検証できていますか?
追伸:
「差別化」を考えながら、しっかりと自社の戦略を作ってみたいという方は、ぜひ、以下のセミナーにご参加ください。どの業種にも共通で応用できる戦略構築プロセスを丁寧に説明いたします。
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝