第25話 次世代経営者がうまく事業を引継ぐ法
「2年後に、社長になる予定ですが、うちは戦略もないまま、とにかく突っ走っているので不安です。」
先日、ある講演の後、名刺交換をした2代目経営者の声です。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
ある講演とは、2月上旬に開催された健康博覧会での主催者に依頼されたもので、これまでも何度か講演をさせて頂きました。
今回は「10億円ヒット商品をつくる!カテゴリーキラー戦略」と題して、お話させて頂きましたが、冒頭の2代目経営者は、サプリメント会社を経営されており、講演を聞かれて戦略の必要性を痛切に感じたとのことでした。
講演では、年商5億円ほどの規模のサプリメントメーカーの成功事例をお伝えしました。その成功事例とは、当時、社長がせっかく想いをこめてつくった商品が売れなくて困っており、当社の指導を受けた後、ヒット商品に生まれ変わったというお話です。
その商品がヒット商品に生まれ変わることで、その年、会社の売上げを3割押し上げたということでした。経営にあたえるインパクトは相当大きかったようです。
ここでのポイントは、社長ではなく、次期社長を予定していた、社長のご子息の専務が、中心となって、この施策に取り組んだということです。そして、このヒット商品の創出で、社長や社員の専務への信頼は、一気に上がりました。
さらに、この話は、これで終わりませんでした。専務は、会社組織として、カテゴリーキラーを生み出せるようになるために、さらなる当社の指導を受けに来られたのです。それを、専務ご自身で決断して行動されました。専務は、私どもの指導を受けながら、なれない戦略プランの策定に一生懸命取り組み、売れる商品づくりに挑戦をしました。そして、当時、私たちが指導させていただいた商品の戦略づくりにとどまらず、その後もどんどん自社商品の戦略プランを構築して、打つ手を止めませんでした。
その後、3年ほどが経過して、ご子息の専務とお会いすることになりましたが、嬉しい報告をいただきました。
「先生おかげ様で、当社の新商品のヒット率は、当時と比較すると5倍以上になりました。以前は、受託の仕事がメインでしたが、今は、自社商品の売上の方が大きくなり、年商も5億から10億円規模になりました。」
その際に、新しい名刺を頂いたのですが、既に肩書は、社長になっていました。さらに現在は、当社で指導を受けた内容を、部下に企画ができるように指導をされているとのことでした。今後は、組織で商品企画ができるようになってくると、社長ひとりの知恵ではなく、会社全体の知恵が結集されて、どんどんよい商品が生み出されてくると思います。現に、そのような傾向があり、今後がとても楽しみということをおっしゃっていました。
さて、この事例から、事業を引き継ぐ経営者がやらなければならないポイントは何でしょうか。
それは、次期社長が自ら動き、できるだけ早い段階で、Small Win(スモールウィン:小さな成功)を獲得することです。
この成功事例では、最初に売れなくて困っている商品をなんとか売れるように変えたということでした。しかも、劇的に売れるヒット商品に生まれ変わったわけですから、社長の信頼をしっかりつかみました。もちろん当社の指導はありましたが、それでも戦略の決断や実行は、専務や現場の方々が中心となって行うわけですから、社長はその姿をみて、納得し信頼します。
この最初のSmall Winがあってこそ、さらなる当社の指導を受けるということに対して社長がゴーサインを出したということになります。きっと、専務であれば、やりきってくれるだろう、結果をだしてくれるだろう、と見たのだと思います。
当社にご相談に来られる企業で、これから事業を引き継ぐ方という人は、少なくありません。中には、事業承継を視野に入れながら、現社長と次期社長が一緒に指導を受けられている企業も多くあります。現社長が、次の世代にチャンスを与えて、その取り組みを見守っています。
そのような企業でうまくいっているところは、やはり現社長が、次期社長にSmall Winを早い段階で体験させます。もちろん取り組む内容によって時間の幅はありますが、現社長が、次期社長にチャンスを与えて見守るということは、とても大切なことだと感じます。
2代目、3代目経営者で、ご活躍されてきた経営者のお話もよく聞きますが、かなり厳しい状況で、世代交代をされた経営者もいらっしゃいます。
売上が下がり続けて、かなり厳しいところから事業を引き継ぐケースや、経営状態がそれほど悪くなくても、現社長の影響力が強大で、なかなか現場の方の信頼を得られないケースなど、ご苦労された話をよく伺います。そのような厳しい中で、事業を引き継いで守り、10年、20年、30年と事業を拡大した2代目、3代目経営者は、本当に素晴らしいと思います。
中には、業態転換ということを判断しなければ生き残れないという時期に、世代交代をされた経営者もいらっしゃいます。このようなケースでは、決まって古参の社員の抵抗を受けます。古参の社員は決まった仕事があり、これまでの流れを変えたくない、できれば面倒なことをしたくない、と思っている人も多いですから、会社がリスクをとって挑戦することに悲観的になります。
しかし、優秀な2代目、3代目経営者は、その先の未来を真剣に考えていますから、このままではまずい、変わらなければいずれ会社は淘汰されていくということを敏感に感じ取っているものです。
うまくいっている2代目、3代目経営者は、本当によく勉強されています。そのような経営者の共通点は、本をよく読まれていたり、経営に役立つ情報収集に積極的です。
若いうちに、時間とお金を費やして、積極的に情報収集し、自分なりに方向性を見出す努力をしています。当たり前のようですが、これをさぼっていると、ご自身で決断することができません。
経営は決断の連続です。その判断に、ご自身が納得できる根拠がなければ、よい決断はできません。
会社の未来、方向性、そして市場に向き合う戦略を考えるときに、ご自身の中で強い意思決定ができるか、それは勉強していない経営者にはできないと思います。そして中途半端な迷いは悪い結果を招きます。
中には、世代交代直後に、パート社員を全員解雇したり、また古参の幹部社員に退職してもらったりという大ナタをふった経営者の話を聞くこともあります。昨今は、会社はブラック企業と言われて叩かれたり、良い会社をつくりましょう、という風潮ですが、実際には、会社が倒産したら終わりですから、経営者は難しい判断と決断を繰り返しています。よって勉強や情報収集は、欠かせません。
2代目、3代目経営者が、そこまでの大ナタをふるという事態は、相当なエネルギーが必要になりますが、その前に、少しずつ現社長や社員の方々の信頼を得られるようにする努力も必要です。現社長の多くは、次期社長の一歩ずつの歩みや挑戦を期待しています。
その歩みを確かなものに変えていくために、ご自身なりに情報収集をしながら、早い段階で挑戦し、Small Winを勝ち取って欲しいと思うのです。
イメージとしては、今後、社長交代するということが決まってから、2~3年のうちに、この期間に、Small Winを勝ち取っていきます。どんな取り組みでもよいと思いますが、ここでいうSmall Winは、売上に好影響を与える取り組みです。
そして、ひとくちに売上に好影響を与える取り組みといっても様々ですが、過去に、数年後の社長交代を視野に入れて、当社にご相談に来られた企業の一例を申しますと、
・新規販路開拓
・商品のブランド刷新
・店舗のブランド刷新
・新商品開発
・新事業開発
などが挙げられます。
これらの取り組み例は、現社長から依頼を受けることがほとんどですが、中には、冒頭のサプリメントメーカーのように積極的な方は、次期社長が単独で当社の指導を受けにくることもあります。いずれにしても、現社長が、本業に影響がでない範囲で予算を組んで、次期社長に挑戦する機会を与えています。
大企業のケースでは、経営者育成の一環で、子会社の社長を経験させたり、事業部長を任せたり、といった形で、実践を通して次の経営者の選抜を行っています。当社は、中小企業をメインにコンサルティングを行っていますが、大手のグループ企業からの依頼も多く、上記のようなプロジェクトの指導を行っています。
社長交代して、経営の実践がはじまると、実力の勝負になります。売上、利益という目をそむけられない現実に向き合った勝負がはじまります。そのことは、社員全員が分かっていますから、次期社長が、社長就任前に見られてしまうのは、なんといっても実績・実力です。つまりは、現社長も社員も納得するような結果を出すことです。この数年間で、Small Winを勝ち取るのです。それが、うまく現場の信頼を得て新社長として引継ぐコツです。
もし、あなたが次期社長であれば、社長就任までの数年間、どのような取り組みをして実績をあげますか?
以上
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
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