第37話 次の事業展開をどうするか?
「以前は、いろいろと思い込みがあったようです。しかし、今は、霧が晴れたように、次の戦略が明確に見えてきました。あとは、やるべきことをやるだけです。」
当社のコンサルティングを受けられた経営者の発言でした。
※カテゴリーキラーとは、競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと。
当社に相談にこられる企業は、実に様々な課題を抱えています。
- それなりに、売上が上がってきており、かなり潤沢な資金を持ちながら、次のカテゴリーキラーづくりの準備をしている企業。
- 新商品開発で、カテゴリーキラーを連続的に生み出したく、戦略ノウハウの習得を目的として、プロジェクトチームをつくって挑戦する企業。
- 価格競争から脱却するために、カテゴリーキラーづくりに挑戦する企業。
- 近年売上が下降傾向にあり、あまり悠長にかまえられない状況で、新しい売上の柱としてカテゴリーキラーをつくろうとする企業。
などなど、挙げればきりがありませんが、コンサルティングを受けられる企業の共通点は、既存事業にしろ、新事業にしろ、新しい売上を生み出していくという取り組みに挑戦しているということです。
売上を上げる手法は、いろいろと選択カードありますが、経営者は、その選択カードから、何を選択するかを考えなければなりません。
とりわけ、既存の商品ラインを充実するとか、既存商品をもっと魅力的にするためにブランディングしていくといったケースは、現在の延長で考えていきますから、それほど大きな迷いはありません。しかしながら、企業によっては、既存事業を根幹から見直さなければならないとか、既存事業から撤退も視野にいれて検討するという重大な局面に置かれているケースもあります。
たとえば、冒頭でご相談頂いた企業は、一般消費財を扱う企業ですが、数年前は、独自性が高かった商材も、現在は競合であふれてしまい、自社商品が埋もれてしまっている状況でした。価格競争も益々激しくなっていく一方です。どうやってここから抜け出していくかということが課題でした。
別の商品に切り替えて売っていくということも考えられますが、中小企業において、長年、じっくりと育ててきた主力商品をすぐに諦めて、次に切り替えるということはあまり現実的ではないでしょう。
まずは、主力商品をどうやって、回復させるかを考えます。次に、その延長で新しい打ち手を検討していきます。ここで、迷っていると一気に主力商品の市場を奪われてしまいます。回復の手立てを必死に考え抜く必要があります。
このような厳しい状況でご相談にこられる企業の場合は、目先の商品やサービスをどうすべきかを考える前に、代表者がどうなりたいか、会社をどうしていきたいか、という「想い」が問われます。
というのは、価格競争に巻き込まれるということは、他社も同じような商品をぶつけてきているわけですから、その商品の付加価値は相対的に落ちています。
どうやって、その商品の付加価値を最大化していくかを考えなければなりません。その方向性を考える際に、商品に対する想いや、今後その商品や提供しているサービスとともに、企業そのものが、社会や業界のどんなお役立ちができるかを考える必要があるからです。
その工程を怠ると、いつまでたっても、良い商品・サービスは生み出されません。目先で売れそうなモノや手法を追いかけ続けるスタイルでは、いつまでたっても自社らしさが確立できず、常に価格競争に巻き込まれていく結果に陥ります。一貫性を欠いた商品が、次々と発売されるだけで、付加価値は増大していきません。つまり、顧客のハートを掴み続けられるブランドにはなりません。
少しイメージしやすいように、ある実話をお伝えしたいと思います。地方の小さな商店街にある、創業百年以上続く老舗の靴屋さんの話です。草履の時代、下駄の時代を経て、靴屋を営んでいます。創業した頃には、その町には、その靴屋さんしかなかったのでそれなりに繁盛していました。しかし、年が経つごとに競合店が増えてしまい、どんどん売上が下がっていきました。さらに、その地域に大型ショッピングセンターがでてくるということになり、いよいよ、危機を目の前にしました。4代目の店主は、焦りました。
このような状況で、どうするかという「想い」が問われます。靴屋をやめて、新しい業態に挑戦するということも選択肢としてあがるかもしれません。しかし、どんな商売であっても本気でやりきる「想い」がなければ、カタチになりません。特に、新事業は、既存事業を立て直す以上のエネルギーを必要とします。
結論としては、既存事業を継続しても、新規事業に切り替えてもどちらでも構わないのですが、本気で意思決定して、一本筋が通ったビジョンを描けているかどうかがポイントです。
商品やサービスをどうするかを考える前に、会社が目指す明確なビジョンを描けているか、その描いているビジョンに向かうために、商品が存在します。商品は、ビジョンに近づくためのひとつの手段ともいえます。
このように企業が変革を要すタイミングで、経営者のマインドがブロックしてしまっているケースがあります。
たとえば、この靴屋さんの例で考えると、「うちは安くて長持ちする靴を扱ってきて喜ばれているから、それを大型ショッピングセンターに取られてしまったら、もうこの町では商売ができない」とか、「うちは田舎の靴屋だから、大手のショッピングセンターが扱うような都会的な靴屋が出てきたら立ちゆかなくなってしまう」など、目の前の大きな問題に意識を奪われて先が見えなくなってしまうパターンです。
それでは、既存事業の生き残りの道、選択肢を自ら狭めてしまいます。そのような時は、いったん問題を横に置いて、企業としての理念や使命、ビジョンというものにしっかりと意識を向けて「想い」から見つめ直すことをお勧めします。
そして、この靴屋さんの例では、代々地元で靴を提供してきた会社として、お客様の期待を裏切らない選択をしました。4代目の店主は、「その町の靴文化をさらに発展させて、もっと喜んでいただく靴屋になる」という方針を打ち出したのです。そして、競合店も、次に出店してくるショッピングセンターも扱っていない、付加価値の高い、比較的単価が高い靴を中心とした品揃えをしていくことにしました。店舗もお客様がゆったりと買い物をできる店に大幅改装しました。そこで、東京銀座の有名靴店などを研究して、品揃えや接客も勉強しました。
そして、この「想い」と「戦略」が功を奏して、見事に危機を乗りこえることができました。現在その町は、地方のどの商店街にも見られるシャッター通りとなってしまいましたが、なんとこの靴屋さんは、活力のあるお店として経営を続けているのです。
店主の「想い」は、店頭でのサービスにもよく現れています。お客様を、心からもてなすサービスが好評で、ゆっくりと買い物をするご婦人が多数やってくるお店になっています。
この店主の場合は、代々続く靴屋さんだったから、そのような「想い」を描くことは簡単だったと思われるかもしれません。しかし、その商店街には老舗のお店は他にもたくさんあり、ほとんどが廃業してしまったことを考えると、老舗でも、強い「想い」をもって挑むことはそう簡単なことではないことは明白です。
当社には、老舗の企業も、比較的新しい企業も相談にこられますが、経営者が、曇りのない霧がはれた、強い「想い」を持てるか、持ち続けられるかが、そのあとの「戦略」のアウトプットと、描いた「戦略」をやりきる原動力になります。
経営者が、自分の本当の「想い」とは違う意思決定をしてしまうと、どんな「戦略」を描いても、やりきる原動力が弱く、結果として負け戦になります。つまりは、経営者の「想い」が、大きな売上にもつながりますし、逆に大きな損失にもつながります。
冒頭で紹介した経営者は、会社が目指す方向性について、徹底的に考え抜き、ご自身の「想い」に根ざした、腹に落ちる具体的な「戦略」を描きました。そして、その後、比較的早期に売上が回復傾向にあるという報告を頂いています。
もし、あなたが既存の商品やサービスの売上が落ち込んでおり、次の打ち手を考えているようであれば、具体的な「戦略」を考える前に、まずはいったん立ち止まって、ご自信の思考にマインドブロックがかかっていないか考えてみて下さい。
そして、ご自身の「想い」と会社の理想の姿について、よくよく考えることをお勧めします。もやもやとした霧がかかったような「想い」で走るよりは、すっきりと霧が晴れた「想い」で走る方が良い「戦略」と、そして何より結果につながります。
あなたの会社が目指す方向性は、霧がはれていますか?
それは、経営者の本当の「想い」と一致していますか?
株式会社ミスターマーケティング
代表コンサルタント
村松 勝
【追伸】
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